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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]巽孝之> 記事 書評 フロイトの弟子と旅する長椅子 [著]ダイ・シージエ[掲載]2007年07月01日 ■中国で姫救出へ、中年童貞爆笑道中記 中国系フランス語作家・映画監督シージエの第一長編『バルザックと小さな中国のお針子』(2000年)は、中国共産党のプロレタリア大革命がピークを迎えた1971年、ブルジョア的価値観の象徴たるヨーロッパ文学への検閲の眼(め)を盗むように、バルザックやスタンダール、フロベールなど禁断の書物を秘(ひそ)かに愛読し続ける若者たちの友情と恋愛を生き生きと描き出した傑作だった。映画版では、彼らの故郷の村が水没していくスペクタクルが感動的だった。 この第二長編も2003年に刊行されるや好評を博し、フランスを代表する文学賞フェミナ賞を受賞。舞台は現代、こんどは精神分析学者ジークムント・フロイトの本が禁断の書物扱いされている。 主人公の中年男・莫(モー)は、フランスでフロイト理論を学び中国に帰国した童貞で丸メガネの精神分析医。彼は大学時代からの想(おも)い姫・胡●(フーツアン)が収監されているのを救うという、ドン・キホーテの夢想めいた野望を遂げるため、名馬ならぬ自転車をこぎ、凄腕(すごうで)の判事・狄建国(ディーヂェンゴ)との取引を試みる。 想い姫は中国警察の拷問の場面を隠し撮りしてヨーロッパのプレスに売りさばいた疑いで、四川省成都の女子刑務所で判決を待つ身。莫はそんな彼女を釈放するために、判事に一万ドルの賄賂(わいろ)を差し出す。ところが判事がそれとひきかえに要求したのはカネではなく、まだ赤いメロンを割っていない娘、すなわち処女だった……。 かくして莫の長い旅が始まるのだが、道中、逃走中の精神病患者と取り違えられたり、三日三晩麻雀(マージャン)をやりまくったあげくいったん死亡した狄判事が蘇生する現場に立ち会ったり、老観測人にフロイトさえ驚くようなパンダの性科学を教わったりと、奇想天外な局面をくぐりぬけていく。管理社会を出し抜こうと必死になればなるほど、彼の歩みは爆笑を誘う。 デビュー作のセンチメンタル・ロマンスとは打って変わって、ここに見事なスラップスティック・コメディを書き上げた作者の技量と可能性は、すでに尋常ではない。 ※●は火へんに山。(ツアン) ◇ 『LE COMPLEXE DE DI』 新島進訳/Dai Sijie 54年、中国・福建省生まれ。71年から74年まで下放経験も。
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