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書評

パリスの審判―カリフォルニア・ワインVS.フランス・ワイン [著]ジョージ・M・テイバー

[掲載]2007年07月01日
[評者]山下範久(立命館大学准教授・歴史社会学)

■ワインを国際化した76年の試飲会

 1976年、パリのイギリス人ワイン商スティーヴン・スパリュアの主催で、フランス・ワインとカリフォルニア・ワインとの比較試飲品評会が行われた。結果は、主催者を含めて誰もの予想を裏切り、赤・白ともにカリフォルニアが1位を占めた。「無個性な安ワイン」というカリフォルニア・ワインへの偏見を劇的に変えるきっかけとなったこの事件は、ワイン愛好家のあいだでは、よく知られたエピソードである。だが、その背景と意義、そしてなにより試飲会の現場がどのようなものであったのかを知るには、これまでまとまったものがなく、むやみに神話化されてきた。

 本書は、この試飲会の現場にいた唯一のジャーナリストである著者による、この事件の総括である。叙述は、この試飲会で赤・白それぞれの1位に輝いたスタッグス・リープ・ワイン・セラーズのW・ウイニアルスキー、シャトー・モンテリーナのM・ガーギッチの2人の人生を軸に、密度の濃いインタビューが、群像劇仕立てのストーリーに昇華されており、実に読ませる。そして泣かせる。特にクロアチアの寒村出身のガーギッチの波瀾(はらん)万丈の半生には涙腺が緩む。

 ワイン愛好家にはおなじみの葉山節の調子のいい訳文にノセられて、一気に最後まで読むと、登場人物それぞれのライフ・ヒストリーに、ワイン産業のグローバル化が刻印されているのがよくわかる。いまさらながらではあるが、これほど世界中でワインが飲まれ、これほど世界中でワインが作られるようになったのは、本当にこの30〜40年間ほどのことなのだ。

 パリ試飲会は、実は厳密な意味では百パーセントカリフォルニアの勝利であったと断言しえない面もあったが、高級ワイン産地としてのカリフォルニアの勃興(ぼっこう)は、この大きな流れのなかでは、むしろ必然であったといえよう。しかも変化の規模と速度は今日さらに上がっているのである。

 読後には、喉(のど)が鳴るのをおさえられない。私も今夜は、ガーギッチ・ヒルズのシャルドネで晩酌にしよう。

    ◇

葉山考太郎・山本侑貴子訳/『Judgment of Paris』 George M.Taber/当時、タイム誌記者。

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