[掲載]2007年7月29日
■苦い現実認識に立脚した護憲平和論
今日の世界では、一方で侵略戦争を否定する国際法の観念が広まりながら、他方から見ると各地で戦乱は絶え間ない状態である。この矛盾する現象を、私たちは理想と現実の違いとして理解すべきなのだろうか? 本書はこれを、「先進国の平和」という概念で説明するものだ。
「先進国の平和」とは、先進国同士が戦争をせず、発展途上国から先進国に戦争を仕掛けることがない体制のことである。確かに第2次世界大戦後、発展途上国では戦争が多発するのに、先進国は自分から発展途上国に出兵した場合を除けば、平和なのだ。本書では、戦後日本が戦争に巻き込まれなかったのも、「先進国の平和」の一環をなしていたからだとしている。
欧米では戦争の統計研究が盛んで、本書もハンブルク大学の戦争原因研究会などの成果に学んだものだ。著者はここ200年の戦争の統計から、近現代の戦争の原因はヨーロッパでもアジア・アフリカでも、国民国家の形成と結びついている場合が多いのを割り出している。逆に国民国家が成熟した先進国では、領土的な争いやマイノリティーとの紛争が戦争という形を取らなくなり、戦争の原因が減少する傾向があるという。また先進国への戦争は、相手が小国でも、他の大国を巻き込む大戦争に発展する恐れがあり、それが抑止力として働いていると推測している。
ただし「先進国の平和」は真の平和主義に立脚するものではない。それは覇権主義を振りかざす先進国が、発展途上国に軍事介入する行動と表裏のものだという。それは戦争を敗戦のリスクの少ない対発展途上国への局地戦に限定しようとするものなのだ。
「先進国の平和」論には、シニカルなところがある。そこには平和実現の理想や人命尊重の価値観は、今日では豊かな先進国やその国民のエゴイズムと結びついた時にだけ実現するという理解があるからだ。著者は護憲派だが、憲法第9条を守ることがこうした世界の現実に一面で合致しているという、苦い現実認識に立脚した護憲派であるようだ。
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くりはら・まさる 36年生まれ。創価大特任教授。『ナチズム体制の成立』。
著者:栗原 優
出版社:ミネルヴァ書房 価格:¥ 2,940
著者:栗原 優
出版社:ミネルヴァ書房 価格:¥ 6,825