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書評

袖のボタン [著]丸谷才一

[掲載]2007年07月29日
[評者]前川佐重郎(歌人)

■機知とこだわりの文明批評

 人間世界の万象に知的好奇心を向けながら、それらをコラムという形にまとめあげた36篇(へん)の文明批評。

 そこには天皇の「恋歌(こひか)」が何故(なぜ)いま姿を消したか、日本人とプロ野球の関(かか)わりなど、題材はすこぶる広い。

 戦前の日本では、スポーツは教育と結びついていてプロは軽視されていた。この底には金銭への蔑視(べっし)や、蔑視するふりをする「いかがはしい精神主義」などがあったらしい。アメリカからもたらされたプロ野球が、打率や防御率、ゲーム差など数字によって明快で能率的な認識の方法を日本人に教えたという。「プロですから」という高々とした言いまわしに、アマチュアと峻別(しゅんべつ)した職業と技術の然(しか)るべき関係を日本人はアメリカから学んだと述べる。一つの文化論だ。

 ふだんあまり気にもとめていなかった事柄に対する物の見方になるほどと小さく頷(うなず)かされる。論旨の道筋にも淀(よど)みがない。

 そこには批判や憤慨だけではなく機知やユーモアもあり、こだわりもある。「批評」は多分に偏屈でなければ務まらない。それが今の時代こそ必要なのだ。

 それに、この本の機知に富んだ題名と和田誠のイラストがピタリと合っているのが愉(たの)しい。

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