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書評

民営化で誰が得をするのか [著]石井陽一/市場原理とアメリカ医療 [著]石川義弘

[掲載]2007年08月19日
[評者]小林良彰(慶應大学教授・政治学)

■理念なき「改革」はどこに向かうのか

 先の参院選で自民党が大敗した。小泉改革で進められた新自由主義改革が現実のものとなった結果、地域間格差や個人間格差に伴う不公平感が生じたことが、大敗の一因としてあげられる。そもそも、小泉元首相を支持していた者は多かったが、改革の中身をどこまで理解して支持していたのだろうか。

 『民営化で誰が得をするのか』は、期せずしてタイムリーな出版となった。著者は、海外移住事業団での駐在経験も持つ神奈川大名誉教授。海外情勢に詳しい目で、日本の旧三公社(国鉄・電電・専売)や、道路公団・郵政の民営化を、米国や欧州・ラテンアメリカ・アジア各国と比較し検証した。

 まず世界の民営化を、動機に基づいて五つのタイプに分け、日本における民営化の多くが「政治的配慮」によって行われ、「民営化そのものは目的ではなく、労働問題、政治問題であった」と批判する。旧三公社のうち、国労・動労や全電通という強力な労働組合があった国鉄と電電公社の解体は、総評の崩壊と社会党の没落を招く。一方、専売公社の労組は穏健であったため、日本たばこ産業(JT)は分割されずに済んだと指摘する。

 小泉改革における道路と郵政の民営化については、なぜ民営化なのか理念がはっきりとせぬままに構造改革という美辞麗句にくるまれ、あたかも逆らえない世界の潮流かのような思いこみの中、既成事実として民営化が進行しつつあると手厳しい。

 経済面の効果も疑問視する。民営化収入で国の債務を償却したり増税を免れたりした国もあるなか、日本の場合は巨額な政府債務の前に焼け石に水でしかなかった。また、郵便料金は変わらず、JRも私鉄と比べて運賃が特段、安いわけではない。こちらも競争原理導入で効果が上がっているとは言い難い。

 民営化では、医療も聖域ではない。例えば、大学の独立法人化や国立病院の民間移転など、わが国でも米国流の市場原理が徐々に導入され始めている。『市場原理とアメリカ医療』は、ハーバード大助教授などを経て横浜市立大教授である著者が、日米の大学で医療に携わってきた経験を背景に、米国の医療制度の現状と問題点を詳細に紹介した。

 国民健康保険制度がある日本と異なり、米国では自動車など他の保険と同様に医療保険が民営化されており、高額保険の加入者は高水準の医療を受けられる。医師も技術に見合った報酬を受け取ることができ、医療水準が他国に比べて高い。しかしその半面、安い保険の加入者は低水準の医療に甘んじ、国民の2割を占める無保険者は症状がひどくなってから救急救命センターに駆け込むか州立病院の慈善クリニックなどへ行くしかない。

 結局、市場原理から得るものもあるが、隣の芝生が緑に見えるが如(ごと)く、何でも民営化しさえすればいいというものではないというのが、両書の著者達(たち)の主張である。財政再建のためなのか、それとも所得再分配のためなのかという民営化の理念を明確にした上で、日本の実情に合わせた公平な実施策を考える段階に来ているのではないか。

   ◇

 いしい・よういち 30年生まれ/いしかわ・よしひろ 59年生まれ。

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