|
ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]久田恵> 記事 書評 ぼくには数字が風景に見える [著]ダニエル・タメット[掲載]2007年08月19日 ■「障害」を武器にした驚異の計算力 目を閉じてじっと数字を思い浮かべる。網膜にうっすらと7が浮かぶ。その私の数字には、なんの特別な形も色も感情もともなっていない。がっかりするほど無味乾燥だ。 けれど、サヴァン症候群とアスペルガー症候群という運命を担って生まれてきた青年、ダニエル・タメットにとっての数字は違う。 彼の数字は内気だとか、騒々しいとか、独自の個性をもっている。色もとりどり。動きも自在。質感もある。さらに、舞い落ちる雪のようとか、悲しいとか嬉(うれ)しいとか数字を媒介にいろんな感情もわいてくる。 それはなんと甘美な体験であろうか。が、このひとつの刺激に複数の感覚が連動して生じる「共感覚」は、脳の障害とされているのだ。 この「共感覚」によって、数字の美しき風景の中を散歩するようにして、ダニエルはπの小数点以下2万2000桁(けた)以上を暗唱できる。また、語学の天才となり、10カ国語を自在に操れるようになった。 本書はそんな著者、ダニエルの生まれてから自立するまでの「回想」の記である。 むろん、彼は独特な赤ん坊だった。常に泣き叫び、幼児期は壁に頭を打ちつけ、自閉的で、日常の手順や日課に極端なこだわりを持ち、友もなく、常に孤立していた。 そんな彼がどうやって成長を遂げていったのか。 彼の数字が彼にもたらす喜びや悲しみの感情を回路に他人の感情に気づいていった。「障害」のなせるわざの驚異の計算力や語学力を武器に社会と折り合いをつける道を自力で発見していった。 そして、ついに愛し合う人と出会う。 この困難だけれど、勇気ある彼の人生の経緯を読んでいると、「人の持つ力」の不思議を実感する。ほんとうは、誰もが、それぞれに底知れぬ能力の箱を抱えているのに、それに鍵をかけているだけかもしれない、という気さえしてくる。私にも、ダニエルの語るようなあの美しい風景がちらとでも見えないものかと、じっと目を閉じ、私は私の数字を思い浮かべてみるのである。 ◇ Born on a Blue Day/古屋美登里訳/Daniel Tammet 79年英国生まれ。特集番組は40カ国以上で放送。
ここから広告です 広告終わり 書評 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 売れ筋ランキングコラム
|