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書評

露の玉垣 [著]乙川優三郎

[掲載]2007年08月19日
[評者]小高賢(歌人)

■普通の武家、生きる姿丹念に

 波瀾(はらん)万丈、手に汗握るといった要素を乙川優三郎の作品に求めてはいけない。英傑・英雄も、秘術・秘剣も登場しない。地道に、真面目(まじめ)に、こつこつと生きる無名者が主役だ。やや地味かもしれないが、読み終わった後、いつも深い思いに襲われる。そういう作家はそれほど多くない。

 本書の舞台は、窮乏にあえぐ越後の新発田藩。下僕から代官になった男と、昔、離縁になった主家の女性との交情、寡黙・偏屈の勘定奉行の生き方、隠居し、一切の虚飾を捨てた元中老の隠居、夫の弟によって実弟が斬(き)られた妻のきれぎれの回想など、二〇〇余年にわたる名もない家臣やその家族の歩みを辿(たど)った八編の連作短編集である

 大水、旱魃(かんばつ)、大火、幕府御用の出費など、藩財政はつねに逼迫(ひっぱく)している。質素倹約ではとうていたちゆかない。そのなかで、武士として筋を通し、家をどう守り、どう継いでゆくか。

 新発田藩に実在した溝口家に伝わる「世臣譜」という資料に基づいているらしいが、老若男女を問わず、必死に格闘する「普通」の人々のすがたが、丹念な描写と静謐(せいひつ)な文体によって、鮮やかに浮かび上がってくる。近年には珍しい重厚感のある歴史小説だろう。

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