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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]巽孝之> 記事 書評 神の火を制御せよ―原爆をつくった人びと [著]パール・バック[掲載]2007年08月26日 ■もし女性科学者が参加していたら… 第2次大戦でアメリカが原爆開発のために組織した「マンハッタン計画」に、もしも若き才女が関(かか)わっていたら? 本書はそんな発想より、美貌(びぼう)の女性科学者ジェーン・アールをヒロインに据え、彼女が内部から行った原爆使用への批判がいかに仲間の男性科学者たちにも影響していくかを描いた、高度にフェミニズム的な原爆小説である。 必ずしもヒロシマ、ナガサキの悲劇が改変されるわけではない。だが、本書は核エネルギーのみならず、ジェーン自身の人間的魅力がもうひとつのエネルギーとして人々を、歴史そのものを動かしえた可能性を、切々と語る。 作者は、中国の農奴社会を舞台にした長編小説『大地』(1931年)で評判を呼び、38年にはアメリカ女性作家として初のノーベル文学賞を受けたパール・バック。しかし、90作を超える作品群のうちでもいちばんの問題作であり、1959年に発表されるやいなやベストセラーとなった本書については、長く品切れが続き、いまでは伝説の作品としてささやかれるのみであった。 その秘密は“Command the Morning”という原題にひそむ。ここには、まず旧約聖書のヨブ記で神がヨブに対し発する問いかけ「おまえは一生に一度でも朝に命令し/曙(あけぼの)に役割を指示したことがあるか」が反響している。「朝」とは、それ自体が「神」とされることの多い「太陽」を指すが、そんな太陽に対して命令を下せるのは「至高の神」のみ。だが、現代科学を推進する人類は「人工の太陽」とも呼ばれる原爆を発明してしまい、至高の神の専売特許すら脅かす。そればかりか、ここでの「朝」は「日章旗」に象徴され史上初めて原爆を投下される国家をも、暗示しよう。 このように、タイトルだけでも思索的な重みをもつ本書は、ジェーンを中核としたロマンティックな物語展開でたちまち読者を引きずりこみながらも、さいごには原爆小説のみならず科学者小説、東西異文化交渉小説としての文学的な深みへと、われわれを誘ってやまない。 ◇ Command the Morning 丸田浩監修・小林政子訳/Pearl S. Buck 1892〜1973。米国の作家。
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