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書評

村上春樹のなかの中国 [著]藤井省三

[掲載]2007年08月26日
[評者]由里幸子(前編集委員)

■魯迅と香港映画つなぐ感性

 「村上春樹は中国の深い影響を受けている」。中国文学者である著者は断言し、これまでアメリカの影響が重視されてきた村上文学の中にまず魯迅の「阿Q正伝」の影を追いかける。

 さらに第1作「風の歌を聴け」や「中国行きのスロウ・ボート」「ねじまき鳥クロニクル」などの作品に表れた中国、中国人の記述の変化を詳細にたどり、中国という「記号」が村上文学にどんなに重い意味をもつかをあぶりだした。

 次に中国語圏での村上人気に取り組んだ筆者は、都市文化の成熟によって、台湾、香港、上海、北京と「時計回り」に火がつき、「経済成長踊り場」や「ポスト民主化運動」の時期に盛り上がる、などといった法則をたてる。

 村上的感性は、ウォン・カーウァイ監督らの香港映画にまで浸透している。魯迅、村上、カーウァイとつないで、20世紀東アジアのアイデンティティー形成という視点までもちこんだ。データもふくめ面白い。

 日本の近現代はアメリカと中国の間に揺れてきた。村上文学は国内では無国籍的ととらえられがちだが、この「記号」の読解によって、「日本人」モデルとして読まれる可能性が十分あることにも気づかされた。

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