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書評

リトビネンコ暗殺 [著]A・ゴールドファーブ、M・リトビネンコ/ロシア 闇の戦争 [著]A・リトヴィネンコ、Y・フェリシチンスキー

[掲載]2007年09月02日
[評者]高原明生(東京大学教授・東アジア政治)

■ソ連崩壊後の政治、陰謀、そして暗闘

 昨年11月、ポロニウム210という放射性物質により亡命先のロンドンで殺害された元ロシア連邦保安庁諜報(ちょうほう)員がいた。『リトビネンコ暗殺』は、00年にリトビネンコ一家のロシア脱出を幇助(ほうじょ)した旧ソ連反体制科学者の友人が、遺(のこ)された妻の協力を得て著した凄絶(せいぜつ)なるロシアの権力闘争の物語である。

 ソ連解体後のロシアは政治と経済の激動期に突入した。急速に成り上がった資本家、息を吹き返した共産主義者、そしてKGBの系譜に連なる情報機関のボスたちの間で、映画「ゴッドファーザー」を髣髴(ほうふつ)させる実力抗争が展開される様は驚愕(きょうがく)に堪えない。

 リトビネンコは上司から新興財閥の長、ベレゾフスキーの暗殺を命じられたと98年に内部告発し、連邦保安庁長官のプーチンから裏切り者とみなされるようになる。翌年、エリツィンはプーチンを首相に任命し、年末には大統領の座を譲った。

 情報機関の権力掌握を助けたのはチェチェン戦争への国民の支持の獲得だった。『ロシア 闇の戦争』はリトビネンコと在米歴史学者の共著。99年にモスクワなどの都市で起き、チェチェン人の犯行とされた一連のアパート爆破テロ事件が実は情報機関の謀略だったことが論証される。

 これらの本は情報機関を糾弾する側が書いたものであり、我々が事の是非を判断するには逆の立場の言い分も聞く必要があろう。プーチンが秩序と繁栄をもたらした強い指導者として高い支持を得ているのも事実だ。しかし、訳者の加賀山氏があとがきで記す通り、権力批判者の暗殺や不審死は多く、言論統制は確実に強まっている。プーチン政権の功罪はともに大きく、我々としてはその強権体質を見据えて付き合う必要がある。

 先日の本紙は、政権を批判していた女性記者、ポリトコフスカヤが昨年10月に殺害された事件に関し、検事総長がベレゾフスキーの関与を強く示唆したことを報じた。だがこの2冊の本を読んだ後、ベレゾフスキー側の見解を併せて知りたいと思うのは評者だけではないだろう。

    ◇

 『リトビネンコ暗殺』加賀山卓朗訳

 『ロシア 闇の戦争』中澤孝之監訳

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