[掲載]2007年9月2日
■早世の異才と生きた劇的な愛の形は
中島らもさんが52歳で急逝し、早くも3年がたった。らもさんとは、新聞の座談会で一度だけ、ご一緒する機会があった。大阪で生まれ京都で学生時代を過ごした評者にとって、その活躍は衝撃的だった。雑誌や新聞の連載、関西のテレビ局が制作したシュールな深夜番組などで、異能ぶりは誰もが認めるところとなる。劇団活動、そして文学賞も得た一連の小説群など、多方面で評価を獲得した。
本書は、らもさんの連れあいによる回想記である。著者は学生時代の自分自身を「野生種のお嬢さま」、らもさんを「温室育ちのシティボーイ」と説明する。高校生の頃のらもさんの心には大きな虚無が巣くっていたという。授業をボイコットし、シンナーや睡眠薬に手を出し、酒を飲む。将来に何の希望も抱けず、音楽と活字に耽溺(たんでき)して生き延びていた。それがひとりの女性との交際が始まることで、劇的な展開をみせる。
若くして結婚し、子をもうけ、家を建てた。だが、まもなく2人は恋人ではなく家族となってしまったと著者はみる。十分な仕事がないままに、毎晩のように、夫は雑多な友人や、たまたま同席した知人を自宅に招き入れる。ゲストハウスのごとき住まいにあって、慈しみあって子供を育てていれば、相互にほかの異性とつきあうのも自由だと形式的には認めあう。
仕事が多忙を極めるにつれ自宅に帰ることも稀(まれ)になる。しかし気持ちは離れてはいない。晩年は、夫婦の時間を大切に過ごすことで「別れるときは悲しませない」という若い日の約束を、らもさんはしっかりと守った。愛情のかたちは、夫婦ごとにまるで違うものだと改めて実感した。
35年におよぶ2人の歩みは、一幕の芝居のようだ。躁鬱病(そううつびょう)の治療、劇団でのパートナーとなったもう1人の女性と著者との愛憎、大麻不法所持での逮捕と裁判の真相などにも詳しく触れる。らもさんは人生を通じて、「中島らも」という作家を演じたのだろう。ひとりのファンとして、この本に出会い、彼の真の生き様と死に様を知ることができて本当に幸いであった。
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なかじま・みよこ 75年に4年の交際をへて、中島らもさんと結婚。
著者:中島 美代子
出版社:集英社 価格:¥ 1,470