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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]野口武彦> 記事 書評 天平冥所図会 [著]山之口洋[掲載]2007年09月02日 ■青丹よし奈良の都のスペクタクル 不思議な才能があるものだと感心した。一種恐るべき無造作さで新領域をずんずん開拓し、面白おかしい時空スペクタクルを現じてしまう。 頁(ページ)を繰れば、青丹(あおに)よし奈良の都の景観がまざまざとよみがえり、八世紀日本の若々しい山河へ読者を連れ込む。そのみずみずしさは、歴史小説家の時代考証とは明らかに一味違う三次元コンピューターグラフィクスの感覚だ。 丹の色も鮮やかな朱雀門はもとより、国家的大事業のため、三笠山が乱伐で禿山(はげやま)にされた光景も出てくる。 奈良時代は明治の日本とよく似たところがあり、かなり無理をして海外の文物を取り入れて同化しようとした。この四篇(へん)連作の小説が主要な舞台にするのは「八省百官」と謳(うた)われた官僚制度である。 主人公の葛木戸主(かつらぎのへぬし)は平城宮の小役人である。藤原氏らの中央貴族に押し退(の)けられて没落した古代氏族の末裔(まつえい)で、「変転する政局の中で時々の勝ち組に取り入ってうまい汁を吸うより、役人としてするべきことがある」と考えている霞が関のお手本にしたいような律義者である。 この人物の周囲で次々と政争がらみの怪事件が起きる。背景は、「三笠山」では聖武天皇の大仏鋳造。「正倉院」では光明皇后とその権力中枢たる紫微中台(しびちゅうだい)。「勢多大橋」では、恵美押勝(えみのおしかつ)こと藤原仲麻呂の乱。「宇佐八幡」では、皇位簒奪(さんだつ)を狙う怪僧道鏡の野望。それを取りひしぐのが戸主の義弟にあたる和気清麻呂(わけのきよまろ)である。年配の読者にはおなじみの名前だろう。 戸主は物語の途中で事故死するが、以後は霊界探偵として活躍する。憑代(よりしろ)になって助けるのが妻の広虫。実在した女官である。配するに、日本と大陸を何度も往復した当時きっての《国際知識人》吉備真備(きびのまきび)。冥界の視点から透視される古代政治史は、唐・新羅との軍事的危機をはらんだ情勢をよそに天皇一族がふける近親憎悪的な権力争いだ。 心身ケアを介して孝謙=称徳女帝と看護禅師道鏡が男女の関係になってゆくところも微笑(ほほえ)ましく書けている。奈良時代がぐっと身近に感じられて何だかいとしくなる。 ◇ やまのぐち・よう 60年生まれ。『オルガニスト』で日本ファンタジーノベル大賞。
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