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書評

せめて一時間だけでも―ホロコーストからの生還 [著]ペーター・シュナイダー

[掲載]2007年09月02日
[評者]赤澤史朗(立命館大学教授・日本近現代史)

■ユダヤ人の潜伏生活の記録

 ナチス統治下のベルリンで、戦争の終わりまで隠れて生き延びたユダヤ人は1500人いたという。音楽家コンラート・ラテもその一人だ。本書は、彼の資料と回想に基づく潜伏の記録である。潜伏生活はゲシュタポに捕まる危険と隣り合わせで、日々の食料と宿、仕事や証明書が必要であり、援助するドイツ人なしには成り立たなかった。

 本書は、迫害されるユダヤ人を、普通の隣人愛から助けた無名のドイツ人が少数ながらいたことを説明しようとするものだ。それはドイツ人の戦争責任論争に一石を投ずるものだった。ユダヤ人を助けたドイツ人で、国家から罰せられた者はいなかったという。しかし本書を読んでまず感じた点は、官憲から追及される人物がかくまわれ続けることは、戦時下の日本では到底ありえなかったということである。

 本書からは、周囲のドイツ人のユダヤ人への偏見や悪意が、どんなに主人公を傷つけて生きる意欲を失わせたのか、逆に人々の好意が、生き抜く内面的な支えになったのかがよくわかる。歴史の大状況は変えられなくても、過酷な状況の中では、小さな良識や決断が大きな意味を持つ場合があることを、知らせる本ともいえよう。

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