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書評

未来への経済論―映画で読み解く私たちの行方 [著]小村智宏

[掲載]2007年09月09日
[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

■「エデンの東」にみる分業の本質とは

 経済のしくみって、みんな絶対知っておいたほうがいいと思うのね。でも、中高生にもわかる良質な入門書ってなかなかない。吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)や伊東光晴『君たちの生きる社会』(ちくま文庫)が、かつてはその役割を果たしていたと思うんだけど。

 『未来への経済論』の著者も似たようなことを考えたんじゃなかろうか。この本は映画を題材に経済を考えようって本なのだ。経済とは「人々が暮らしていくうえで、お互いに支えあう枠組み」のことだと小村さんはいう。で、その本質は「分業」だと。

 分業という概念を考える教材は「エデンの東」。農業、製造業、流通業、サービス業というように私たちの社会は役割分担によって成り立っている。ところが分業が高度に複雑化してくると、一見「まっとうでない事業」も生みだされる。「エデンの東」のキャルが手を出した先物取引みたいなね。でもさ、それもまた経済を構成する要素のひとつだったりするわけだよ。

 と、こんな感じで、「大逆転」で価格のメカニズムを学び、「ローマの休日」や「太陽がいっぱい」の「いちば」の場面に経済の縮図を見、一方では極端に細分化された分業が「モダン・タイムス」のような非人間的な労働現場も生み出すこと、利益や効率を追求する社会は「自転車泥棒」のように失業という事態も出現させること、分業には「社会的分業」や「組織的分業」のほかに「クレイマー、クレイマー」が描いたような家庭の内と外の分業もあることなど、話は多彩に展開する。

 経済、仕事、企業、政府、進歩、未来という6章29項に登場する映画は新旧あわせて30作余。映画ファンには邪道といわれそうだが、これもビデオやDVDなどが充実した現代ならではの活用法だ。

 〈決して完璧(かんぺき)ではないのは、人も経済も同じです。それを理解し、受け入れることが、より良い未来へ向かう第一歩となるのではないでしょうか〉という著者の視線はあたたかい。経済って結局社会のことだから。人が見えない経済じゃしょうがないんだよ。

    ◇

 おむら・ともひろ 65年生まれ。三井物産戦略研究所の設立に参加、主任研究員。

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