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書評

あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅 [著]城戸久枝

[掲載]2007年09月09日
[評者]久田恵(ノンフィクション作家)

■異国にとり残された父の運命たどる

 「昔、小船で河を渡ってきた日本人の子どもが、村の夫婦にもらわれて育ち、本当の両親の元に帰っていった」

 そんな物語が中国東北地方、牡丹江のほとりの小さな村で今も語り継がれている。その子どもを孫玉福(スンユイーフー)、その養母を付淑琴(フースーチン)という。

 孫玉福は、貧しいながらも優しい養母に育てられたが、日本人であることを捨てなかった。数百通もの手紙を日本の赤十字社に送り、自分が戦災孤児であることを訴え、28歳で、帰国を果たした。それは1970年。日中の国交が回復される前、中国では文化大革命の嵐が吹き荒れていた混乱の時代だった。

 本書は、その孫玉福の娘、「中国残留孤児二世」の著者が、「父と私と異国の祖母」の物語を渾身(こんしん)の力で書き下ろしたノンフィクション作品である。

 著者は、父の帰国後に日本で生まれている。父の苦難の歴史を知らずに、ごく普通の大学生になった。が、なにかに導かれるように21歳で中国に留学。日中の歴史を学び、父を育てた祖母の縁者と出会い、戦争に翻弄(ほんろう)された「父の運命の物語」を10年かけてたどっていくこととなった。

 異国に一人、とり残された幼い子どもが、誰に愛をもらい、誰に支えられ、どう生き延びて自分の父となったのか。それが自分につながる大切な物語であり、この父の強さと敵国の子どもを守り育てた養母の愛がなかったら、自分がこの世界に誕生することはなかった……。

 そのことに、戦争を知らない若い著者が気づき、「父の物語を書く」使命に突き動かされていく経緯が、この作品を深いものにしている。

 著者の父、城戸幹(きどかん)は帰国後も言葉の壁に阻まれ、実の父に思いを伝えられなかった。本書はその人生を報われたものに変えた。そして、私たち日本人にとっても、これは、誰かの手で書き残されねばならない物語であったことを伝え得た。

 テーマへ向き合う切実さこそが、力あるノンフィクションの書き手を誕生させる、その思いをあらたにさせられる一冊である。

    ◇

 きど・ひさえ 76年、愛媛県生まれ。出版社勤務をへてフリーライターに。

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