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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]野口武彦> 記事 書評 官邸崩壊 安倍政権迷走の一年 [著]上杉隆[掲載]2007年09月16日 ■現代史に刻む「崩壊」までの舞台裏 朝日新聞の世論調査によれば、発足時の2006年9月に63%もあった安倍内閣の支持率は、参議院選挙に大敗した直後の2007年7月末には26%に急落していた。 当初「戦後レジームからの脱却」を呼号して鳴り物入りで船出した政権が、成立後わずか一年に満たないうちにかくも鋭角的に失速したのはなぜか。策源の首相官邸では何が起きていたのか。本書は、手で触れれば火傷(やけど)するくらいホットな政治状況に立ち向かった時局ドキュメントであり、かつまた、やり直しの利かない一回限りの政治劇に独特の《史眼》を閃(ひらめ)かせ、現代日本史にいちばん新しいページを書き込んだ一冊である。 頼山陽の『論権』に曰(いわ)く、「人主、千手万目(せんしゅばんもく)あるにあらざれば、則(すなわ)ち勢として人を使わざるを得ず。大臣(だいしん)を使えば則ち大臣その権を竊(ぬす)み、小臣を使えば則ち小臣その権を竊む」と。「権を竊む」とは君主側近の臣下が権力への通路を占有することだ。権力者は権力を手にした瞬間から運命的に無力になる。 ジャーナリズムの使命は権力の監視にあると自負する著者は、前著『小泉の勝利 メディアの敗北』で、「政治とは権力闘争であり、その権力の最大の源泉は人事である」といい、小泉前首相が長期政権を維持した秘密は「人事の妙」にあったと断じている。最後まで「権を竊」ませなかったのである。 側近はどんな人脈か、政策決定にどんな人物が介在するか、政権では《誰》がどんな役割を果たしているか。そのフィルターを通して見えてくる首相昵近(じっきん)のグループ、別名「チーム安倍」の解剖が本書の独壇場である。 著者はたんなる政治記者風の情報通ではない。(1)筆が速い、(2)情報の信頼度が高い、(3)適度に意地が悪い、と三拍子揃(そろ)ったスタイルが読者を問題の核心に引きずり込む。就任直後の首相に、電撃的な中韓訪問で輝かしいスタートを切らせた若き側近たちの自信、忠誠心競争、功名争いが、間もなく自画自賛と自己顕示に変質し、初期には成功の要因だったチーム編成自体が危機の誘因に反転するアイロニーの分析は冷酷なまでに冴(さ)えている。 続々と明るみに出る首相官邸の内幕は、靖国参拝の「曖昧(あいまい)戦略」とか「カメラ目線」とか話題に富んでいて読者を飽かせない。面白がっている場合ではないが、とんでもない失敗の数々は読んでいて笑える。本書中ではもちろん名指しで、容赦ない批判を浴びせられるのが首相秘書官と首相補佐官である。「何よりも、安倍からの評価、そして安倍といかに自分が近しいかをアピールすることが優先される。仕事の中身は二の次だ」という一文など語り得て妙ではないか。 年金不安、大臣の自殺・更迭のドミノ現象など不測の事態が相次いで安倍政権を襲い、「美しい国」はどこかに霞(かす)んでしまった。改造人事も思うに任せず、首相はついにあの《権力と無力との不可避の内的弁証法》(K・シュミット)を統御しきれずに終わった。 予想や推測によらず、検証力で安倍政権崩壊の必然を洞見していたこのスリリングな一冊は、国民の政治に向ける眼(め)を肥やす。 ◇ うえすぎ・たかし 68年生まれ。衆議院議員公設秘書、米紙記者などを経てジャーナリスト。『田中真紀子の恩讐』『石原慎太郎「5人の参謀」』など。
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