|
ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]斎藤美奈子> 記事 書評 ハル、ハル、ハル [著]古川日出男[掲載]2007年09月16日 ■マジやばいっすよ、この小説は きみはもう読んだ? 『ハル、ハル、ハル』。マジやばいっすよ、この小説は。読むとテンションの高さがうつるからね。あと口調も。本を読みながら息がハアハア上がるって、あんまりない体験だと思うんだけど、この小説は呼吸と脈拍に影響が出る。それはこの本が読者に「走る」ことを強要するからだ。 表題作に登場するのは3人の「ハル」である。 13歳の晴臣(ハルオミ)は母に捨てられた。8歳の弟といっしょに。金は底をついている。そして拳銃を手に入れた。13歳にして彼は「ノワール(犯罪小説)」に近いところに立ってしまった。 16歳の三葉瑠(ミハル)は家出の常習者である。母は何度も結婚した。家庭は幸福ではない。彼女はこれまで山ほど書かれてきた不幸な「家族小説」の主人公なのだ。 ひょんなことから2人は出会い、タクシーをジャックする。タクシーの運転手、原田悟(ハらださとル)は41歳。エリート昇進レースから脱落し、会社をリストラされて以来ろくでもない人生だった。そして晴臣と三葉瑠を乗せた瞬間から「ロード・ノベル」に巻き込まれるのだ。 3人の「ハル」はそう、三者三様に社会の矛盾を背負った、いってみれば犠牲者なのだ。だけど、そんなつまんないことを古川日出男はだらだらと説明しない。かわりに巻頭で異例の宣言をする。 〈この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。ノワールでもいい。家族小説でもいい。ただただ疾走しているロード・ノベルでも。いいか。もしも物語がこの現実ってやつを映し出すとしたら。かりにそうだとしたら。そこには種別(ジャンル)なんてないんだよ〉 かくして3人の「ハル」は疾走し、読者も疾走する。 言葉って、切羽詰まると解体されて文章の体をなさなくなるのね。だから読んでる人の息も上がる。同時収録の他2編もそう。そこにあるのは事件をニュースとして語る言葉(たとえば良識的で他人事(ひとごと)然としたワイドショーのような!)の対極にある言葉である。ともに走れ。絶望を共有せよ。そんな声が聞こえる。 ◇ ふるかわ・ひでお 66年生まれ。著書に三島由紀夫賞受賞の『LOVE』など。 ここから広告です 広告終わり 書評 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 売れ筋ランキングコラム
|