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書評

万太郎 松太郎 正太郎−東京生まれの文人たち [著]大村彦次郎

[掲載]2007年09月16日
[評者]杉山正樹(文芸評論家)

■東京人の目で描く作家たち

 まず、着想がいい。東京生まれで東京育ちの著者は東京人の美質も弱点もよく知っている。また、文芸編集者だったので、文人たちの内情や心情に通じている。そして、なによりも文章がいい。

 久保田万太郎と川口松太郎と池波正太郎は、下町の浅草生まれで互いにかかわりがあった。万太郎と前後して「三田文学」から文壇に出た水上瀧太郎と、広津和郎は山の手生まれだが、瀧太郎はお屋敷育ちで、和郎は貧しかった。硯友(けんゆう)社(しゃ)の著名な小説家だった父の柳浪が、時代にとり残され、零落していたからだ。

 1章から5章までの人物像は的確に描きわけられ、構成が連句のようなので、物語としてもおもしろい。

 小説だけでなく戯曲も書いた下町の作家たちには、自分の世界を守って一歩も譲らぬ職人気質が共通していた。

 6章は下町生まれ、7章は山の手生まれの文人たちを、明治から現代までたどる。著者の親交した作家も多く挿話も豊富だが、吉田健一の場合、世評高い晩年の評論や小説にふれず、石川淳は「少数の熱狂的な読者の賞賛を得るにとどまった」とある。〈売れるが価値(勝ち)〉の当代以前、部数と文学的評価は、別ものだったはずなのだが。

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