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書評

無頼の悲哀―歌人大野誠夫の生涯 [著]坂出裕子

[掲載]2007年09月16日
[評者]小高賢(歌人)

■人生をたどり全体像に迫る

 「兵たりしものさまよへる風の市(いち)白きマフラーをまきゐたり哀(かな)し」(『薔薇祭』)などで、戦後歌壇に鮮烈な印象を与えた大野誠夫(おおの・のぶお)。しかし、近藤芳美、宮柊二などに比べると、いつの間にか、短歌史の波間に隠れてしまった感は否めない。

 短歌事典には、多く虚構派、風俗派とある。しかし、そのレッテルで済ませていいのか。本書は、生涯を掘り起こしながら全体像に迫った労作である。

 まず、驚かされるのは生い立ちである。利根河畔の大地主の四男として生まれた。父親は入り婿。跡取り娘の母親が思うままに振る舞っていた。生まれてすぐ里子に出される。6歳になって家に戻ってきたら、今度は、母親から想像を絶する過酷な扱いを受ける。

 人と深く付き合うことを避け、本心を晒(さら)さないのも、事実より抒情(じょじょう)、虚構に力点を置いたのも、その傷痕(きずあと)から生じているのではないか。子どもの作品が多いのもそのせいだという。

 数奇な人生だけでなく、作品の読み、素材への追求、さらには里子に出された漱石や、芥川、太宰らとの比較などによって、秘められた内面が次々と明らかにされる。大野誠夫再評価につながるはじめての本格的歌人論ではないか。

    ◇

不識書院・3150円

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