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書評

信長は本当に天才だったのか [著]工藤健策

[掲載]2007年09月30日
[評者]前川佐重郎(歌人)

■資料たどり天才神話に反駁

 信長の天才性は、桶狭間の戦いでの不利を覆した勝利を始め、経済の時代を見越した楽市・楽座の開設、南蛮人の渡来によって大航海時代に入ったという先進世界の潮流を直感的に見抜いたことなど信長ファンならずとも知っている。これら諸説の幾つかに対し、桶狭間から本能寺の変に至る信長の行動を綿密な資料渉猟によって辿(たど)り、反駁(はんばく)を加えたのが本書である。

 わずか2000人の信長軍が奇襲して大軍の今川義元を破った桶狭間の戦い。「軍略の天才」と言われたこの戦も拙劣なもので、たまたまの豪雨に助けられただけにすぎないという。また戦術家として信長の名を高めた長篠の戦いでも、3000丁の鉄砲を用意して武田騎馬軍団を破り、「戦術革命」だとする説に対し、武田軍の内情が原因だと反論。

 また一向一揆戦などでの皆殺しの無慈悲な手法が「天才」にふさわしいかと疑問を投げかける。

 天才とは、いつも孤独でだれにも理解しがたいことを行う。これに敢(あ)えて反証を試みたところに意義がある。ただ、天才とは何かという概念や定義を明確にするとともに、あの時代の世界に対する信長という人物の眼差(まなざ)しにも触れてほしかった。

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