ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]赤澤史朗> 記事

書評

露探 日露戦争期のメディアと国民意識 [著]奥武則

[掲載]2007年10月07日
[評者]赤澤史朗(立命館大学教授・日本近現代史)

■「ロシアのスパイ」の実像とは

 「露探(ろたん)」とは日露戦争の時代に、敵国ロシアのスパイとみなされた人のことである。本書によれば、この当時「露探」として告発され排撃された人は、全国で相当な数に上るようだ。ただし実際に軍機保護法違反で捕まり有罪となった例は、少数だったという。

 「露探」の中で最も有名なのが、秋山定輔の事件である。「露探」の嫌疑をかけられたことで、秋山は衆議院議員の辞職を余儀なくされ、彼が社長であった『二六新報(にろくしんぽう)』紙は発行禁止となった。この事件の背後には秋山と桂内閣との対立や、秋山の「露探」疑惑を書き立てた『万朝報(よろずちょうほう)』紙との競争があったという。そしてこの事例を含め「露探」事件には、権力やジャーナリズムが率先して作り出したケースがあった。

 また「露探」の発生には、隣人の中から「露探」を摘発しようとする国民の存在も無視できない。著者は国民の意識の底に、大国ロシアへの根深い恐怖心が潜んでいたと見ている。

 「露探」の多くは事実無根だったとはいえ、本書はそれを一括して幻想とは断定していない。それは冷静な事実究明こそ非合理なナショナリズムの跳梁(ちょうりょう)に対処する道だとする、著者の立場を示すものといえよう。

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る