|
ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]久田恵> 記事 書評 テオ もうひとりのゴッホ [著]M・A・オザンヌ、フレデリック・ド・ジョード[掲載]2007年10月07日 ■熱情の兄を支えた「善き人」の生涯 星や月の光が空いっぱいに渦巻く「星月夜」とか、花が炎のように身をよじらせている「ひまわり」とか。 ゴッホの絵を見ると、37歳で精神を錯乱させて自ら命を絶った天才画家が、今も、表現の前線でやむことのない戦いに挑んでいるように見える。「ぼくは、この仕事に命をかけている!」と。 このゴッホの唯一の理解者で、生涯無名だった兄を支え続けたのが弟のテオ。彼らの愛の物語は名高い。 ゴッホは、自分の作品を「ぼくらの絵」と呼び、すべての所有権を弟に与え、代わりに経済的な援助を求め続けた。画商として成功したテオは、兄に惜しみない援助を与えたと言われている。 が、真実はどうだったのだろう。テオが支え続けたのは、過剰な熱情に突き動かされ、人生を混乱させてばかりの兄だ。テオ自身の夢や希望は、この兄を支えることでかなえられたのだろうか。 本書は、天才の陰に生きた弟テオの生涯に光を当てた初の伝記である。テオが家族とやりとりした98通の未公開書簡が資料になっている。 テオは、ゴッホとは4歳違い。誰からも愛されるいい子だったらしい。 が、家族の経済の逼迫(ひっぱく)で、15歳で画廊に就職。早い自立を強いられたばかりか、長男のゴッホに失望した両親の期待のすべてが彼に向けられた。父は牧師。両親から愛と自己犠牲を刷り込まれ、「善き人」であり続けることから生涯逃れられなかった。 本書によれば、テオは、家族や兄への仕送りのために安給料に耐え、画商としての独立の夢も断念。繊細で、優しすぎて、複雑で、いつも虚(むな)しかった。しかも、結婚で「平凡な幸福」が手に入ったのも束(つか)の間、病魔に襲われ33歳でこの世を去った。 本を閉じて思わずため息が出る。思わずうなだれてしまう。芸術に殉じることと他者の幸福に殉じること。どちらが美しいのか、そんな問いが浮かぶ。 100年以上も前の異国に生きた人とは思えない哀切さを、テオの人生に誰もが感じてしまうだろう。 ◇ 伊勢英子・伊勢京子訳/M・A・Ozanne 歴史研究家、F・d・Jode ジャーナリスト。
ここから広告です 広告終わり 書評 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 売れ筋ランキングコラム
|