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書評

プラスチック・ワード 歴史を喪失したことばの蔓延 [著]U・ペルクゼン

[掲載]2007年10月28日
[評者]野口武彦(文芸評論家)

■交換可能な抽象語の不気味な蔓延

 小泉内閣が表看板に掲げた「構造改革」は、もともと左翼用語だった。かつてイタリア共産党が唱えた革新的社会政策の理論だったのである。それが180度ひっくり返って自民党政権の標語に採り入れられたわけだ。学生運動経験者の官僚が思い付いたアイデアだったかもしれない。

 現代社会を支配しているのは、このように左右いずれの政治勢力でも便利に使いこなせるマスターキーのような言葉である。著者はこれを「プラスチック・ワード」と名づけ、「システム」「トレンド」「プロジェクト」などたかだか3、40語ぐらいの単語が言語ピラミッドの頂点に立ち、現今の世界を動かしていると警告を発する。「構造」もその一つである。

 それはたんなる決まり文句ではなく、スローガンでもなく、特定の意図のもとに「たがいに交換可能な規格部品」として使用される用語キットである。著者はこれを言語の「モジュール的用法」と命名すべき「新しいタイプの語」と規定して分析を加える。遠からぬ将来、歴史から切り離された抽象語で作られる文の組み合わせが人間を操作するようになるのではないか。

 プラスチック・ワードを並べさえすれば、《Aは特別な開発課題を持つ場所としてBのさらなる造成地に指定されている。住民の新たなニーズに応じてCのコンセプトを作るプロセスが急がれる》といった具合に万能の企画書ができる。Aに地域名、Bに用途目的、Cに誘導目標を代入すればいっちょ上がり。どこへ持って行っても通用する。

 ドイツ人の著者は右のプロセスを英語のグローバル支配と結び付け、ドイツ語の危機としても警鐘を鳴らす。日本に押し寄せる《国際化》の意味も考えさせられる。

 欧米語の「発展」が自動詞化したという話が参考になった。「出来事が自然現象であるかのように」意識された結果、旧植民地が「発展途上国」と改称されたそうだ。日本語でも「地域の発展」と謳(うた)うと土地が勝手に伸び広がるみたいな印象になる。なぜだか開発業者は、デベロッパーと片仮名で呼ばれる。

    ◇

 糟谷啓介訳/Uwe Porksen 35年生まれ。作家。元・独フライブルク大教授

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