|
ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]山下範久> 記事 書評 老いてゆくアジア 繁栄の構図が変わるとき [著]大泉啓一郎[掲載]2007年11月18日 ■福祉が調わぬまま加速する少産化 アジアに若々しい成長社会のイメージを抱く一方、少子高齢化社会を日本や一部の成熟した先進国に固有の課題だとお考えの読者には、まず認識を改めていただかねばならない。05年のデータで、韓国をはじめとする新興工業経済地域(NIES)の合計特殊出生率はすでに日本を下回り、東南アジア諸国連合(ASEAN)や中国、インドにおいても、ここ十数年のあいだに少産化は加速している。 たしかにある程度事情に通じた方ならば、アジア各国の少子高齢化は既知の話でもあろう。だが他方で、「アジアの活力」を取り込むことで「我が国の将来」を保障しようとする言説が無反省に繰り返される場面に出くわすことも少なくない。事実としては認識していても、パラダイムの更新につながっていないのだ。 本書の分析の中心は、多産少死社会から少産少死社会への転換過程がもたらす経済的有利性(教育の普及、労働投入量の増大、貯蓄率の上昇)が、産業化を促進する効果を検討することにある。この効果は「人口ボーナス」と呼ばれ、アジアでは日本を先頭に、NIES、ASEAN、中国と、波及的に経験されたと著者は指摘する。 だが、この人口ボーナスは永続しない。そればかりか、経済成長へのボーナスとなった世代の高齢化は、転じて福祉負担を増大させる。逆に言えば、人口ボーナス効果が切れる前に、経済成長の果実を持続的な福祉制度に結びつけなければ、大きなツケが回ってくるということだ。 それはまさに今の日本の苦しみであるが、さらに深刻なのは、日本にまして急速に成長を遂げ、同じくボーナス局面も急速に駆け抜け、結果としてベースになる福祉の仕組みも調わぬまま高齢化社会に突入するアジア諸国である。 この大状況に対して、国ベースの福祉に限界を指摘する著者は、一方でローカルな共同体の福祉機能の活性化を、他方でアジア規模の福祉ネットワークの構築を提唱する。その実効性は未知数であるが、平明な筆致で語られる大胆な発想は大いに読む者の蒙(もう)を啓(ひら)いてくれる。 ◇ おおいずみ・けいいちろう 63年生まれ。日本総合研究所調査部主任研究員。
ここから広告です 広告終わり 書評 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 売れ筋ランキングコラム
|