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書評

ロックフェラー回顧録 [著]デイヴィッド・ロックフェラー

[掲載]2007年11月25日
[評者]巽孝之(慶應大学教授・アメリカ文学)

■知識人として20世紀文化史を洞察

 ロックフェラー・センターといえば、マンハッタンは五番街の目抜き通りでもひときわ輝く名所だ。しかし、それが当初は1930年代の大恐慌を生き抜くアメリカの国家的象徴であり、だからこそ80年代末に日本企業に買収されたときには国民からごうごうたる非難を浴びたのだといういきさつは、どれだけ知られているだろうか。

 アメリカの代表的大富豪ロックフェラー家は、初代こそ石油産業で名をなしたが、センターを建てた2代目に続き、著者を含む3代目になると、次男のネルソンがフォード政権の副大統領を務め、五男である末っ子のデイヴィッド本人がチェース・マンハッタン銀行の経営拡大でグローバリズム時代を準備し、共産圏を含む各国首脳とも親密な対話をくりかえすばかりか、イラン国王(シャー)の亡命の手助けまでして、20世紀そのものの政財界史を築き上げる。建国の父祖フランクリンの時代より、成り上がり者の自伝はアメリカ文学の伝統を成してきたものの、本書ではまったく逆に、もともと大財閥一家に何不自由なく生まれ育った「国際派」の著者が、むしろ戦後のアメリカ合衆国そのものを全地球的存在にまで、成り上がらせていく。

 本書最大の読みどころは、著者がたんなる「金持ち」にとどまらず、シカゴ大学経済学博士号を取得し、かの精神分析学者フロイトや芸術家ピカソとも歓談し、モダニズムの巨匠ガートルード・スタインの美術蒐集(しゅうしゅう)品を購入するなど、並々ならぬ教養と鑑識眼を備えた知識人として、20世紀文化史をも鋭く洞察している点だろう。ロックフェラー家はかつて資本家の代名詞として、マルクス主義を信奉するピーター・コリアーら左翼系論客から激越な批判を受けたが、本書は、当時の批判者がいまでは右翼系論客へと転向してカネを得ている無節操ぶりをさりげなく指摘するなど、いわゆる新保守主義(ネオコン)の正体について、チクリと一矢報いてみせるのも忘れない。ロックフェラー家のみならず現代アメリカ文明自体をめぐる、これはあまりに痛快な批評的自伝である。

    ◇

 Memoirs

 楡井浩一訳/David Rockefeller 15年生まれ。現在も事業や慈善活動に携わる。

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