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書評

生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い [著]針山孝彦

[掲載]2007年11月25日
[評者]渡辺政隆(サイエンスライター)

■生物と環境をめぐる「なぜ」を探究

 タマムシという虫をご存じだろうか。虹色に輝くあの甲虫である。美しい鞘(さや)ばねの金属光沢は、表面の微妙な構造が七色の光を反射し分けるせいで生じている。虫が死んでも色あせないため、法隆寺に伝わる玉虫厨子(たまむしのずし)など、古来、美術品にも用いられてきた。

 タマムシはなぜ、あのようにあでやかな色なのか。それに関する面白い講演を聴講したことがある。繁殖期、タマムシの雄はカキなどの梢(こずえ)を飛び回り、葉の表にとまっている雌を探し当て、交尾をする。活字にするとこれだけの話だが、雄はあの虹色のパターンを目当てに雌を視覚で探しているという仮説を、実験と行動観察から巧みに裏づけていく過程を紹介した講演は、ストーリーがよくできていて、とても面白かった。

 以来、注目してきたのだがようやくその人の著書が出た。ただし本書に肝心なタマムシは登場しない(まだまだネタはあるということか)。

 タマムシの代わりに登場するのは、トビムシ(同じ名前の昆虫と甲殻類がいる)、フナムシ、トンボ、カメムシ、ツェツェバエなど。本書では、それらの動物を狂言回しに、生き物と環境をめぐる「なぜ」を探究すべく、南極からアフリカ、北極圏まで渡り歩きながら積み重ねてきた思索が語られる。

 生物の起源や遺伝の仕組みなど、ともすれば教科書的な記述に陥りがちな話題も、旅先のエピソードをからめて抵抗なくするりと読ませてしまう構成はおみごと。

 世間には、科学者は話し下手という固定観念がある。しかし、研究とは仮説を構築しては検証していく作業であり、ストーリーを組み立てる作業にほかならない。優れた研究者は、本来、優れた語り部の資質の持ち主でもある。その好例が本書だろう。

 残念な事実誤認が一つ。エコロジーの語の初出はソローだとあるが、これは日記中のジオロジー(地質学)の筆跡を読み違えたことに端を発する誤伝であり、ましてや『ウォールデン』にその語は登場しない。ただし、その点と、専門書っぽすぎる書名は別にして、お薦めの一冊。

    ◇

 はりやま・たかひこ 52年生まれ。浜松医科大学教授(動物生理・行動学)。

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