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書評

マダム貞奴―世界に舞った芸者 [著]レズリー・ダウナー

[掲載]2007年11月25日
[評者]奈良岡聰智(京都大学准教授)

■数奇な生涯を好感を込めて

 日本人が想像する以上に、海外でよく知られる日本人というのが存在する。本書の主人公「マダム貞奴(さだやっこ)」こと川上貞奴は、その代表であろう。

 伊藤博文など大物政治家から寵愛(ちょうあい)された芸者時代。オッペケペー節で知られる俳優川上音二郎と結婚し、「日本人初の女優」として音二郎一座の興行を支えた女優時代。実業家の愛人となった晩年。演劇さながらに数奇な貞奴の生涯を、筆者は好感を込めて描き出す。

 本書の圧巻は、1899年から約2年間行われた海外公演の実態を、欧米の史料を用いて解明した点にある。日清戦争に勝利した日本は、欧米で一種のブームを巻き起こしており、貞奴たちは広く大衆に受け入れられ、各国の元首や王族に謁見(えっけん)を許されるなど、大歓待を受ける。和洋を巧みに折衷した貞奴の演技は、舞踏家イザドラ・ダンカンや彫刻家ロダンなど多くの芸術家も魅了し、作曲家プッチーニは、オペラ「蝶々夫人」の作曲にあたって、彼女から強い影響を受けたという。

 欧米に鮮烈な日本イメージを広めると共に、欧米の演劇文化を移入する先頭に立った貞奴。その生涯から浮かび上がってくるのは、文化の相互浸透とでも言うべきドラマである。

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