ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]その他> 記事

書評

私の男 [著]桜庭一樹

[掲載]2007年12月02日
[評者]末國善己(文芸評論家)

■謎めいた過去に迫りながら

 矢継ぎ早に話題作を世に送り出している桜庭一樹の最新作は、ダークな雰囲気の恋愛ミステリーである。

 2008年6月、結婚式を翌日に控えた腐野(くさりの)花は、養父の淳悟(じゅんご)、婚約者の尾崎美郎(よしろう)と会食する。一見すると幸福に思える風景は、花と淳悟が愛するがゆえに肉体関係を持ち、さらに殺人事件にもかかわっていたことが暗示されることで一転。やがて物語は1993年まで時間を遡(さかのぼ)り、語り手を変えながら、二人の謎めいた過去に肉薄していく。

 過去へ遡ることで意外な真相を浮かび上がらせる手法は、類似作も多いので決して珍しくはない。

 だが花と淳悟の関係にしても、殺人の動機にしても、ほのめかされている事実は読者を欺くための前ふりに過ぎず、常に予想を裏切る意外な結末が用意されているので、謎解きの完成度も高い。

 花と淳悟は世間の常識からすればおぞましい関係だが、作中では美しくも魅力的に描かれている。二人の退廃的な愛は、バブル崩壊後の不景気、そして拡大する所得格差によって日本人の常識や倫理観が激変した状況ともリンクしている。社会の“闇”が個人の生活に影響を及ぼすという普遍的な構造を明らかにしたところも鮮やかである。

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る