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書評

数が世界をつくった―数と統計の楽しい教室 [著]I・バーナード・コーエン

[掲載]2007年12月09日
[評者]山下範久(立命館大学准教授・歴史社会学)

■数量化の技術で社会を変えた人々

 本書の原題は「数の勝利」。「いかにして数えることが、近代生活をかたちづくったか」と副題が添えられている。けだし数量化、すなわち世界や社会を数値で把握することが知識の正しさや確かさを保証すると考える態度の発達は、近代の本質の一部だ。自然を支配する主人としてふるまう近代人は、あらゆるものについて数を数え、量をはかる人間である。

 しかし、この数量化の道のりは決して単線的なものではなく、またその道のりが今日、すでに終えられた旅路であるというわけでもない。数量化による知が木石から人間自身へと及ぶにつれ、ある緊張が高まるからだ。人体も物体であり、人間も動物である分だけ、数量化は人間を理解するのにも効果を発揮する。翻って言えば、数量化の技術が上がるほど、人体は物体に近づき、人間は動物に近づくということだ。その先にほの見えるのは、いわば人間が自己家畜化する社会である。

 数量化がもたらすこの緊張は、いまにはじまったものではない。数量化へ向けた技術革新は、つねにある種の暴力・冒涜(ぼうとく)として抵抗を受けてきた。だが、天文学や物理学から始まった数量化が、医学や社会学、そして政策科学へと拡大していくさまを描く著者の筆致は、数量化を推進した者と抵抗した者とを対置するよりもむしろ、推進する立場のなかでの複雑さを提示している。数量化は、必ずしも一元的で一貫した科学的態度ではないのだ。

 たとえばM・フーコーやI・ハッキングのような、比較的哲学的な著者の作品に親しんでおられる読者なら、本書が渉猟しているエピソードが、それぞれ科学史・思想史上の重要テーマに触れていることに気がつかれるであろう。だが本書の稀有(けう)なところは、そういうややこしい話抜きに、例えばナイチンゲールが先駆的な統計学の実践家であった逸話(彼女は自らデータをグラフに加工し、病院衛生の改善を訴えた)など、個々のストーリー自体に読み物としての面白さがあることである。本書がこの大家の遺稿となったことが惜しまれる。

    ◇

 寺嶋英志訳/I.Bernard Cohen 1914〜2003。米の科学史家。

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