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書評

近代中国の政治文化―民権・立憲・皇権 [著]野村浩一

[掲載]2007年12月16日
[評者]高原明生(東京大学教授・東アジア政治)

■今日も続く伝統文化克服の試み

 21世紀の中国がどこへ向かうのかは世界の大問題だ。中国共産党が市場化の道を歩むと宣言してから15年。経済の高度成長が続き、人々の生活水準の向上は目覚ましい。だがその一方で、格差の拡大と社会のまとまりの喪失、拝金主義の蔓延(まんえん)と道徳の退廃を憂える人も増えている。汚職にまみれ、問題解決能力を低下させた政治体制の行方も不透明なままだ。

 しかし、長い中国史の文脈で考えれば、今の中国の変動は20年や30年前に始まったことではない。本書では、1911年の辛亥革命を起点とする中華世界の解体と再生が今日もなお続いていると捉(とら)えられる。具体的な分析の対象は20世紀の初めから30年代までの政治文化や思想潮流であり、著者によれば思想、文化こそ秩序形成の方向づけに強く作用する。本書を読むと、実に100年にわたって中国政治の基本課題にほとんど変化がないことに驚かされる。

 農民大衆の子であった孫文は、「造反」と「光復」(漢民族主体の回復)という政治文化的伝統、そして公平を求める農民世界の文化的伝統を基に「民権」「共和」の理念を掲げた。しかし混乱にあって現実に権力を支えたのは、袁世凱(えんせいがい)が立脚した皇権的政治文化、すなわち皇帝―官僚支配の政治文化であった。そして後には、救世主の登場による平天下を望む農民の心性が毛沢東の権力獲得を支えた。

 このような伝統文化の問題を克服する試みは確かにあった。一つは、地域社会の安定と繁栄を自らの責務とした張謇(ちょうけん)ら開明的士紳層の立憲主義である。もう一つは、新中国の新文明造りを目指し、集合的な民権より個々人の人権の確立を強調した胡適(こてき)ら知識人の自由主義であった。20世紀初頭、伝統的な「公」観念は公平、公正(法治)そして公開(パブリシティ)の主張として表れたのだった。

 言うまでもなく、これらの挑戦は今日も続いている。中国の行方を考える上での本質的な問題は何か。中国近現代政治思想史研究の泰斗は、読み手を十分に意識しつつ、ダイナミックな節回しで丁寧に教えてくれる。

    ◇

 のむら・こういち 30年生まれ。立教大学名誉教授(中国近現代政治思想史)。

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