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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]斎藤美奈子> 記事 書評 みなさん、さようなら [著]久保寺健彦[掲載]2008年01月06日 ■異化された「箱庭の中のヒーロー」 高度成長期には憧(あこが)れの的であったのに、いまでは過疎化と高齢化が進む団地。『みなさん、さようなら』は陰りが見えはじめた80―90年代の団地が主役の物語だ。 物心ついたときから団地に住み、団地の子どもたちが通う小学校を卒業し、団地から一歩も出ることなく暮らすと決めた「おれ」。団地の中には何だってある。遊戯室もトレーニングルームも視聴覚室も図書室も保育園も商店も郵便局も内科医院も。団地の外にある中学校へは不登校で通し、その後は団地内のケーキ屋で働きはじめた。団地の中で恋愛をして婚約にもこぎつけた。結婚しても団地にいようと考えていた「おれ」に、しかし彼女はいったのだ。 「子供はどうするの?」「子供もずっと団地に縛りつけられなきゃならないの?」 団地の中で身体を鍛え、団地の図書室で知識を蓄え、仕事も友達も恋人も団地の中で調達してしまう少年にニックネームを与えれば「箱庭の中のヒーロー」だろう。 小学校を卒業した年から30歳になるまでの17年間に、同じ団地に住む107人の同窓生は櫛(くし)の歯が欠けるようにどんどん外に流出してゆく。そんな団地の中をパトロールして歩く彼は、地球防衛隊ならぬ、たったひとりの団地防衛隊の趣すらある。ある意味これは「ちょっとズレたヒーロー譚(たん)」なのだ。なぜ彼が団地の外に出られなくなったのか、その理由(ショッキングです)を知れば、異化されたヒーロー譚という読み方もそう的外れではないと思ってもらえるんじゃないかな。 作者の久保寺健彦さんは、この作品で第1回パピルス新人賞を受賞。2007年には別の作品で第1回ドラマ原作大賞選考委員特別賞と第19回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞も獲得、一挙に3冠に輝いた話題の大型新人だ。 若干の不満をいえば、もう一方の受賞作『ブラック・ジャック・キッド』(新潮社)も『みなさん、さようなら』とかぶる作風。両作とも器用にまとめすぎの感ありだ。舞台は箱庭でいいのさ。でも作者には箱庭を壊すゴジラの気概を期待してるよっ。 ◇ くぼでら・たけひこ 69年生まれ。進学塾勤務の傍ら小説執筆。本書で作家デビュー。
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