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20世紀ファッションの文化史―時代をつくった10人 [著]成実弘至

[掲載]2008年1月13日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家)

■独自の世界観と創造性で社会に挑む

 「デザイナーを取りあげた本は少なくないが、その仕事を正しく論じているものはそれほど多くない」

 著者は、これまでの服飾文化史に挑戦状を叩(たた)き付ける。ポワレ、シャネル、ディオール、ヴィヴィアン・ウエストウッド、コム・デ・ギャルソンなど著名な10人のファッションデザイナーの足跡を紹介する。その視点と語り口が従来の人物評とは根本的に違うのだ。

 デザイナーがどのような人生を送り、どのような作品をつくったかという事実関係だけを学んでも、ことの本質は見えてこない。彼らが、いかに独自の世界観を持ち、旧弊を打ち破ったのか。その創造性に光を当て、今では当たり前に見えるファッションが、発表当初はどれほど斬新で、社会に挑む試みであったかを知ることこそが重要だと著者はみる。

 さらには、実際にどの国のどのような階層が彼らの服を受容して着こなしたのか、消費の局面を分析する。加えて、生産システムのありよう、同時代の芸術運動など、デザイナーたちの活動の背景にまで話題を広げていく。社会との関係性をも読み解くことで、彼らの仕事をはじめて正当に論じることが可能になるというわけだ。

 ファッションデザインは、19世紀に誕生し、20世紀に飛躍をみた。かつては権威や個性を服装で表現することができた王侯や貴族を除くと、一般の人たちは所属集団のなかで同一化するように装うことが当然であった。しかし新興富裕階層の登場や、さらには大量消費社会の進展で、誰もが流行の服を身にまとい、やがて自分らしさを主張するようになる。ファッションは、私たちの外見の民主化とともに個性化を促した。

 冒頭で、19世紀に新しい服づくりに挑んだチャールズ・ワースとリーヴァイ・ストラウスを紹介している点が象徴的だ。前者は、パリで伝説的なファッションハウスを創設し、オートクチュールと呼ばれるハイファッションの端緒を開いた。後者は、ドイツから渡米した移民。彼の会社が手がけた丈夫なワークパンツが、のちにジーンズとして世界を席巻する。高級な既製服と大衆のための作業服、かけ離れた2種類の衣類に20世紀ファッションの原点がある。ふたりの先駆者は、ともに量産システムの進展に歩調をあわせ、大量消費社会を先導する商品を世に送り出した。

 著者はまた、早くから偽物をめぐる問題が顕在化した点にも焦点をあてている。そもそもファッションは複製であることが前提であったのではないか、という本質的な問いかけがそこにある。高級ブランドが偽物の取り締まりに躍起になる現状に対して、「本物の領域を偽物が侵犯していくからではなく、本来デザインには『コピー』しかないことが明らかになるのを恐れているからだろう」と言い放つ。刺激的だ。

 教科書的な服飾様式史や、著名なデザイナーたちの単なる成功談の類(たぐい)に飽きた人に、まず本書を薦めたい。これほど生き生きとした服飾産業と近代の社会システムとをめぐる物語は、これまで読んだことがない。

    ◇

 なるみ・ひろし 京都造形芸術大学准教授。専門は社会学、文化研究。著書に『空間管理社会』(共編著)、『モードと身体』(編著)など。

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