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書評

トラや [著]南木佳士

[掲載]2008年01月20日
[評者]由里幸子(前編集委員)

■小さな生命の存在に救われて

 内田百けんの「ノラや」を類推させる題が示すように飼い猫トラを回想した小説である。ここにあるのは猫への愛情だけではない。猫も人間もふくめた、命のはかなさと生の重さである。

 信州の病院で内科医をつとめる「私」は作家でもあり、大きな文学賞を受けた翌年、突然うつ病になる。夕日のころになると強くなる死への誘惑。それをまぎらわせてくれたのが、軒下にやってきた子猫たちの姿で、やがて家の中で飼い始める。とりわけ強く死を意識して刃物を探したとき、足元にからみついた小さな生命の存在に救われる。

 そんなトラとの時間に、さまざまな死が語られる。死期をさとって飼っていた百羽の小鳥を放した老女。悪性腫瘍(しゅよう)のため42歳で先立った後輩の医師。寝たきりの父を自宅にひきとっての介護は「私」や家族に疲れをもたらした。だが葬儀を契機に心療内科の通院は終わる。「まぎれもなく、この身は父の死を糧に生き延びたのだった」という一行は重い。時によって変容していく人間の、生死の微妙な響きあいが静かな余韻を残す。

 小型の本造りは、病んだ人でも手に取りやすい。まるで、あの子猫のように読者のそばにありたい、というかのように。

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