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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]渡辺政隆> 記事 書評 エピデミック [著]川端裕人/感染地図―歴史を変えた未知の病原体 [著]スティーヴン・ジョンソン[掲載]2008年01月27日 ■疫学のスリリングな歴史とドラマ 寒い季節になると必ずインフルエンザの流行が話題になる。それに加えて最近は、鳥インフルエンザなど新しいタイプの感染症に対する不安も語られるようになってきた。 疫病でも、人類との付き合いが長い病原体は、人類とある種の共存を図っている。感染した相手(ホスト)をじわじわと弱らせ、他のホスト候補との接触の機会を増やせる病原体でなければ存続できないからだ。 しかし鳥インフルエンザやエボラ出血熱など新興感染症のウイルスは、本来、人類を標的としたものではなく、人類との付き合いも短いため、恐るべき毒性を発揮する。そのような感染症が発生したなら、感染ルートを特定して感染源を絶つと同時に、病原体の正体捜しを早急に進める必要がある。そこで活躍するのが疫学である。 ただ、疫学は相関関係、因果性、確率など、不確実性をはらんだ問題がからんでくるせいで、必ずしも単純明快な答えは出ない。たとえば、1996年に社会的大問題となった病原性大腸菌O(オー)157の感染源も、結局は突き止められずに終わった。だが、原因が突き止められないまま終息した感染症の流行よりも、関係者の努力によって手際よく終息させられたり、水際で食い止められたりした感染症の方がはるかに多いはずである。そしてそこには、語られるべきドラマがある。 『エピデミック』は、小説という形で疫学のドラマを語った一級の読み物である。東京近郊の海岸部でインフルエンザに似た謎の致死的感染症が勃発(ぼっぱつ)する。そこに疫学隊員が乗り込み、感染症の原因を突き止める物語なのだ。かつてベストセラーになった海外小説『ホット・ゾーン』に負けない小説が日本人によって書かれたことを喜びたい。しかも、ニセ科学やインチキ商法なども盛り込んだ、空想科学ではない、科学的な小説である。 この小説の中でも触れられているが、疫学の誕生は、19世紀半ばにロンドンで発生したコレラの大流行時とされている。疫学の歴史を語る場合には、コレラの感染源が共用井戸であることを、足を使った丹念な実地調査で明らかにしたエピソードが、必ず紹介されることになっているのだ。 しかし、その詳細について語られることはあまりなかった。『感染地図』は、医師ジョン・スノーが、当時はまだ汚染された空気が原因とされていたコレラ患者の発生場所を地図に落とすことで、問題の井戸とコレラの流行との相関を突き止め、両者の因果関係を追い詰めていったスリリングなノンフィクションである。 おまけに本書は、最初は学者仲間から相手にされなかった革新的な学説が、やがていつの間にか受け入れられ、最後は当たり前の事実になっていく科学革命の過程を語った書としてもおもしろい。それにしても、19世紀ロンドンの公衆衛生のひどさはすさまじい。 ともかく折もよし、疫学を題材にした好著2冊を読んで、病原体に打ち勝とうではないか。 ◇ 『エピデミック』かわばた・ひろと 『感染地図』矢野真千子訳/Steven Johnson
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