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書評

最後の大奥 天璋院篤姫と和宮 [著]鈴木由紀子

[掲載]2008年01月27日
[評者]野口武彦(文芸評論家)

■慶喜の助命を嘆願、歴史の表面に

 よく歴史は女で作られるといわれるが、実際にどんな過程をたどるのかは必ずしも明らかではなかった。

 本書は、幕末政局で女の力強さを発揮した天璋院(てんしょういん)こと薩摩藩島津家の篤姫(あつひめ)をヒロインにして語る「女縁から見た徳川の裏面史」である。

 江戸城大奥は、テレビドラマで見るような愛欲と嫉妬(しっと)だけが渦巻く世界だったのではない。この禁域は、将軍家の血統の培養所だったのみならず、妻妾(さいしょう)や奥女中を介して外部から最高権力者の意向に影響を与え得る通廊としても使われたから、絶えず政治の力学が作用する《場》であったと理解しておくべきだ。

 将軍家と縁組をした大名は外様(とざま)でも「松平」と称するのを許される。中でも西南雄藩の島津家は、(1)五代将軍綱吉の養女竹姫が五代継豊(つぐとよ)へ、(2)一橋家の保(やす)姫(ひめ)が八代藩主重豪(しげひで)へ、(3)重豪の息女茂姫が十一代将軍家斉(いえなり)へ、(4)一橋家の英(ふさ)姫(ひめ)が十一代藩主斉彬(なりあきら)へと、前後四度にわたって徳川家といわば《相互乗り入れ》し、強固な徳川=島津姻戚(いんせき)同盟を作り上げている。これらの婚姻を通じて、両家の間には長い間、幕末期に発生した敵対からは想像できない良好な関係が続いていたのである。

 著者は用意周到だ。本書のメインプロットに入る前にたっぷり助走距離を取り、《前史》をしっかり書き込んでいるので、篤姫の物語はたんなる幕末ロマンに止(とど)まらぬ政治史の輪郭を整える。

 篤姫は島津斉彬の養女である。その上に近衛忠熙(ただひろ)の養女という箔(はく)を付けて十三代将軍家定に輿入(こしい)れしたが、家定は間もなく世を去ったので剃髪(ていはつ)して天璋院と称した。斉彬から政治的使命を託されていたが、その斉彬も死去。十四代家茂(いえもち)に降嫁してきた孝明天皇の皇妹和宮との確執も読みどころの一つだろう。

 だが最大の山場は、その天璋院がやはり未亡人となった和宮(静寛院)と手をたずさえ、鳥羽伏見の一戦で薩摩軍に敗れた最後の将軍慶喜(よしのぶ)の助命嘆願に立ち上がる場面だ。

 政治の世界には姻戚・閨閥(けいばつ)の隠された半球がある。この一瞬、女の力が歴史の表面に顕然と示されたのである。

    ◇

 すずき・ゆきこ 47年生まれ。作家。『闇はわれを阻まず 山本覚馬伝』など。

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