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書評

芝居の神様 [著]吉川潮

[掲載]2008年01月27日
[評者]四ノ原恒憲(編集委員)

■名優が一人芝居にかけた執念

 「瞼(まぶた)の母」「一本刀土俵入」「国定忠治」「人生劇場」「王将」……。かつて多くの日本人が大まかであれ、その筋立てを知り、名せりふの一つも口ずさめた芝居だ。そんな共通の“教養”が消えたのはなぜか。人々の好みの変遷もあろうが、それらを当たり狂言とした新国劇の消滅の影響も多々あるような気がする。

 坪内逍遥が命名者となり、1917年、沢田正二郎らが結成した新国劇。旧派たる歌舞伎を意識しながら、男っぽい芝居を得意とした。教えを受けた沢正亡き後、辰巳柳太郎とともに、戦前、戦後を通じてその黄金時代を築いた名優、島田正吾の生涯をたどる本書。それは、1987年に経営難から解散した新国劇の興亡史でもある。

 「動」の辰巳、「静」の島田。全く対照的な個性にもかかわらず生涯の盟友だった辰巳との友情。脚本を提供した長谷川伸、北条秀司、池波正太郎らとの熱き交流。新国劇が最後に生んだ大スター、緒形拳との師弟愛、96歳まで続けた一人芝居にかける執念……。

 なにやらギスギスしたこの時代のせいなのか。人情の機微に満ちた新国劇の脚本そのままのような人生からは、ひたすら懐かしい香りが立ちのぼる。

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