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書評

カツラ美容室別室 [著]山崎ナオコーラ

[掲載]2008年02月03日
[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

■わかりにくくたって、友情は友情

 作家のデビュー作はおうおうにして書き手と重なる同性で同世代の人物が主人公の場合が多いけど、山崎ナオコーラは最初からちがった。文芸賞を受賞したデビュー作『人のセックスを笑うな』は19歳の男子と39歳の女性の恋愛を男の子の側から「オレ」という一人称で綴(つづ)った小説で、妙ちくりんなタイトルやペンネームも含め、そのインパクトはなかなかのものだった。

 『カツラ美容室別室』はそんな彼女の最新作。芥川賞こそ逃したものの、今度の視点人物も「オレ」であり、それはしかも、こんな人を喰(く)った書き出しではじまるのだ。

 〈「桂美容室別室」の店長、桂孝蔵は、他人の髪の毛を懸命にカットしているが、自分自身はカツラをかぶっている〉 カツラの美容師! ヤだ、おもしろそうじゃないのっ。

 「カツラ」という語に喚起されただろう読者の期待に、しかしいささかも媚(こ)びることなく物語は進行する。

 高円寺の桂美容室別室は店長のほかには若い女性スタッフが2人いるだけの小さな美容室である。年上の友人に命じられてそこに通うことになった「オレ」は、みなで花見に行ったり、美容師のエリと2人で美術館に出かけたり、徐々に親しさを増してゆく。だけど、いまひとつ進展しない「オレ」とエリの仲。

 事件は店長が東京を去ったあとに起きた。〈小倉でも、カツラかぶって、カツラの美容師やってんのかね?〉。そう口にした客にエリはつかつかと近づき〈グーで客の顔を殴った〉のである。〈『カツラの美容師』って、なんですか?〉〈カツラさんは、カツラを面白がってかぶっていたんじゃないんです〉

 『カツラ美容室別室』は友情の物語なのである。エリが客を殴ったのが店長への友情なら、「オレ」とエリの間に育っていたのも友情だ。

 〈男女の間にも友情は湧(わ)く。(略)恋愛っぽさや、面倒さを乗り越えて、友情は続く〉

 恋愛至上主義、セックス至上主義、そしてわかりやすい関係に逃避する小説への、これはやんわりとした異議である。そうだよ、友情は10代の専売特許じゃないんだから。

    ◇

 やまざき・なおこーら 78年生まれ。『人のセックスを笑うな』で第41回文芸賞。

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