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書評

越境の声 [著]リービ英雄

[掲載]2008年02月03日
[評者]鴻巣友季子(翻訳家)

■言葉の自明性をうち砕く意志

 西洋出身初の日本語作家である越境の作家にとって、文学を分かつのは国でも人種でもなく、「その言語に違和感をつきつけられる言葉をもつか否か」のようだ。日本語が完熟したのは古今和歌集で、あとは衰えていく、と書いた三島由紀夫の「進化論」的な言語の捉(とら)え方とまったく違う地点に、この対談・論考集は立っている。書き手を駆り立てるのはむしろ、言葉の軋轢(あつれき)やズレだ。

 「美しい日本語」という考え方に対して、美しさとは言語そのものの中にある「葛藤(かっとう)」が生みだすもの、と富岡幸一郎氏は発言する。また、水村美苗氏は、良質の文学とは必ず「間口の狭い」翻訳困難な部分を伴うと言い、大江健三郎氏はフランス文学の訳文と原文を照らし読むうちに、「新しい日本語の森が立ち上がってきた」経験を語る。

 「ユニバーサルな」「国際的な」作家とはなにか。きっと日本人が日本語で「日本文学」を書く時でさえ、そこに必要なのは、言葉の自明性をうち砕く越境の意志なのだ。そう思うと、まさに言語の越境の現場である翻訳書において「こなれた訳文」ばかりが好まれるのは残念だ。翻訳者は日本語にもっと波乱を起こすべきかもしれない。

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