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書評

ひげがあろうがなかろうが [作]今江祥智 [絵]田島征三

[掲載]2008年02月10日
[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

■謎めいた設定に反権力の静かな意志

 〈あそこは、この世のいきどまりよ〉。お父(とう)がそう呼ぶ切り立った山のこちら側、崖(がけ)のふもとの大竹林のそばで、たけはお父と暮らしていた。家の裏には小屋があり、「裏住みの男」が絶えず住みついては去ってゆく。お父は竹細工の名人だが、家をあけると何日も帰ってこず、お母(かあ)とはたまにしか会えない。ゆえあって、お母は崖の向こうの町で暮らしているのである。

 今江祥智『ひげがあろうがなかろうが』は、そんな謎めいた設定ではじまる。

 耳に心地よい民話のような読み心地。児童文学界の巨匠が放つ久々の長編だ。しかし民話のように見えるのは表層だけで、これはとてつもなくスケールの大きい冒険譚(たん)であり、少年の成長譚でもある。

 たけは鉈(なた)で竹を割る方法を習い、見よう見まねで弓矢の扱いかたを覚え、はじめての狩りでウサギをしとめ、流れを泳いでわたる術も身につけた。「この世のいきどまり」の下には水をたたえた鍾乳洞があり、泳いでそこを抜ければ城のある町に出るのだ。

 次々と新しいステージをクリアしていく少年・たけ。やがて彼はお父とふたり旅に出て、海に出会う。が、そのころ陸では大きな地震が。

 本書には前身となる作品がある。1970年に出版された『ひげのあるおやじたち』がそれ。歴史的に「非人」と呼ばれるだろう男たちを主人公にしたこの作品は「差別を助長する」との理由でやむなく絶版になったのである。

 どこが問題だったのか。その点は同時収録の「ひげのあるおやじたち」を併読されたいが、37年ぶりに生まれかわった本書では、歴史の表舞台に出てこない山や川や海の者たちのバックステージがじっくり描かれ、「ひげのない」少年や女たちにも活躍の場が与えられる。ブラボー!

 〈城の連中は、わしらを消しても人を殺(あや)めたとは思いよらん。そこをちいとずつでもわからせようがために、山越えしてきよった者も川の者たちも、動いてくれておるのよ〉

 反権力の静かな意志を底に秘めた骨太な物語。大部の著だが、小学生から大人まで引き込まれること請け合いっ。

    ◇

 いまえ・よしとも 32年生まれ。著書に『海の日曜日』『ぼんぼん』など。たしま・せいぞう 40年生まれ。

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