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書評

土曜日 [著]イアン・マキューアン

[掲載]2008年02月17日
[評者]多賀幹子(フリージャーナリスト)

■不安と恐怖が忍び寄った日

 主人公ヘンリー・ペロウンは、40代後半の優秀な脳神経外科医。妻は有能な弁護士。娘は最初の詩集の出版を目前にする詩人。息子はミュージシャン。ロンドンの邸宅に住み、何不自由ない幸せな生活を送る。

 ある土曜日未明、炎を上げて空港へ向かう飛行機を目撃したペロウンは、たちまちテロ攻撃と結びつける。ニューヨークの「9・11」以降、すべてが「同じ」ではなくなったのだ。

 イラク戦争反対のデモのため車を迂回(うかい)させた道路で、いざこざを起こす。娘との戦争を巡る会話は激しい口論に変わってしまう。安らかな日曜日へと続くはずだったのに、不穏な予兆は具体的な恐怖となって一家に襲い掛かる。

 認知症を患う母親や若い女性患者との触れ合いにペロウンの深い考察を織りこんでサスペンスタッチで進み、やがて一条の光が差しこむまでを鮮やかに切り取る。主人公の抱える不安感は、現代に生きる私たちと共有されるべきものなのだろう。

 著者は、ブッカー賞など数々の賞を受賞。名実ともに現代英文学を代表する作家の一人。脳外科手術をこれほど優美に描写した作品を私は知らない。それだけでも一読の価値がある。

    ◇

 小山太一訳

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