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書評

阪急電車 [著]有川浩

[掲載]2008年02月24日
[評者]巽孝之(慶應大学教授・アメリカ文学)

■人の数だけ物語を乗せて

 先月、集中講義で関西出張し、毎日のように、梅田から阪急電車を利用した。その車中、何の気なしに本書をめくったところたちまち引き込まれ、淡路駅で京都本線から千里線へ乗り換えるのを忘れてしまった。

 本書が扱うのは阪急今津線の宝塚駅から西宮北口駅までのたった八つの駅、片道ほんの15分の道程にすぎない。だが、その往復から16の部分的に絡み合うエピソードを紡ぎ出し、さいごにはほのぼのと心温まる印象をもたらすのだから、何という手練(てだ)れだろう。

 とくに強烈なのは「宝塚南口駅」で乗る、婚約者を同僚に奪われながらも彼らの結婚式に新婦以上に派手な純白ドレスで乗り込み「討ち入り」を遂げる女や、「逆瀬川駅」で彼女に助言する老婦人、はたまた折り返し地点の「西宮北口」でブランドバッグを放り投げ席取りする中年女性たちの物語だろうか。しかしそれら全体をくるむかたちで、中央図書館で顔見知りだった若いふたりが、車中ふとしたことで会話を交わし愛を育てていく物語が入るのは、まさに『図書館戦争』シリーズ著者の面目躍如。「人数分の物語」を乗せて走る路線自体が「人」「生」の二文字を含むことに気づかせる仕掛けにも、舌を巻く。

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