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書評

歴史を記録する [著]吉村昭

[掲載]2008年02月24日
[評者]奈良岡聰智(京都大学准教授)

■徹底した史実探求への姿勢

 歴史を研究する者として私が常に心がけているのは、厳密に史実を確定することだ。史料を丹念に発掘、分析し、従来知られてこなかった、または既に忘れ去られた事実を復元する。新しい史実を見いだした時、しばしば切に思う。「事実は小説より奇なり」と。

 しかしこの言葉は、吉村昭の小説には当てはまらない。吉村文学は、史実の確定に徹底的にこだわり、虚構を排したところに成立しているからである。吉村の生前の対談を編んだこの本を読むと、彼が並の研究者など寄せつけないほど、史実の探求に大きな精力を注いでいたことが分かる。

 例えば吉村は、『桜田門外ノ変』の執筆にあたり、恐るべき執念で、当日の雪が何時にやんだのかを探り当てている。対談者の一人・永原慶二は、こういった成果を「歴史家の仕事」と絶賛している。

 城山三郎との対談も興味深い。同年生まれで末期戦中派に属する二人は、終戦前後の価値観の激変を冷静に受け止め、客観的な視点から、戦前の政治や社会を小説として描いた。対談から、二人の歴史に対する真摯(しんし)な姿勢が浮かび上がる。

 吉村文学ファンのみならず、広く歴史に関心を持つ読者にお薦めしたい一書である。

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