ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]小林良彰> 記事

書評

フランスの学歴インフレと格差社会―能力主義という幻想 [著]マリー・ドュリュ=ベラ

[掲載]2008年02月24日
[評者]小林良彰(慶應大学教授・政治学)

■教育の長期化でも残る不平等に警鐘

 わが国は、親の階層とは無関係に子供が頑張れば弁護士にも医者にもなれるという意味では平等な社会である。しかし、かつては都立日比谷高校などの公立高校が東大合格者の多くを占めていたが、今は中高一貫教育の私立が上位に並び、東大生の親の年収が全国平均を大きく上回っているという。

 欧州でも英国では、私立のパブリックスクールに行くか公立に行くかで将来の進路は大きく分かれる。公立からオックスフォードやケンブリッジへ進学するのは至難の業であり、親の階層が子供の進路に大きく影響している。

 これに対して、フランスでは、親の社会階層にかかわらず、子供の教育機会を増やすことで社会的流動性が高まり、平等な社会が実現するという平等化政策が採られてきた。しかし、本書は様々なデータを基に「教育の長期化」が実は不平等をもたらすと警鐘を鳴らす。例えば、1950年に5%であったバカロレア(大学入学資格)保有率が95年には66%に達したが、管理職の父親をもつ男子の53%が管理職に就いたのに対して労働者の父親をもつ男子では11%に留(とど)まっている。

 その原因として、著者は形式的には平等な教育の機会が与えられていても、実際には親の階層によって子供が受ける教育の程度が異なることを指摘する。例えば、教職や自由業の親をもつ生徒の21%がエリート校であるグランドゼコールに入学したのに対し、単純労働者の親をもつ生徒では1%未満に過ぎない。

 また、教育の長期化により多くの高学歴者が生まれたが、それに見合う雇用が創出されず、学歴インフレが起きている。このため、親世代より高学歴な子世代が親世代と同等の社会的地位を獲得できないことになる。

 さらに、高い社会的地位に就くために高学歴を求める学校の手段化が進行し、生徒が成績や進学、学位といった功利性以外の動機では勉強しなくなったと著者は嘆く。

 教育バウチャー制など教育分野への市場原理導入を検討するわが国にとって、本書の主張に傾聴すべき点は多い。

    ◇

 L’inflation scolaire : Les desillusions de la meritocratie 林昌宏訳 Marie Duru−Bellat 教育問題が専門の社会学者。パリ政治学院教授。

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る