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書評

世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか [著]岡田芳郎

[掲載]2008年03月02日
[評者]香山リカ(精神科医、帝塚山学院大学教授)

■映画と食に生涯を捧げた男

 町オンチで味オンチの私だが、酒田市とそこのレストラン「ル・ポットフー」だけは好きだ。それはなぜなのかという長年の謎が、本書を読んで氷解した。「ル・ポットフー」は酒田に生まれた佐藤久一という男が心血を注いで作った店だったのだ。本書は、日本海の小都市で「映画」と「食」というふたつの文化に生涯を捧(ささ)げたひとりの男の数奇な人生を追った評伝だ。

 ひとことで言えば、妥協を許さない凝り性。採算を度外視しての計画は、当たればホームラン級だがリスクも大きい。20歳で親から経営をまかされた映画館「グリーン・ハウス」は、豪華な内装や一流の接客で「世界一デラックスな映画館」として成功する。その後、食の世界にのめり込んだ佐藤は、今度は酒田に一流のフランス料理店をオープンさせる。次いで家族連れも来やすいように、とデパートに出店したのが「ル・ポットフー」。そのレベルの高さには、開高健や丸谷才一、山口瞳ら食通たちも舌を巻いたという。しかし、材料原価だけで料金を上回る、といった経営で次第に赤字が増え、アルコールに耽溺(たんでき)した佐藤はがんであっさりこの世を去る。

 「昭和」からの熱い声が聞こえてきそうな一冊だ。

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