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書評

伯林星列―Berlin Konstellation [著]野阿梓

[掲載]2008年03月02日
[評者]巽孝之(慶應大学教授・アメリカ文学)

■「二・二六」が成功していたら

 もしも第2次世界大戦でヒトラーが勝利を収めていたら? こうした発想の歴史改変小説は「ブレードランナー」の原作で著名なディックの『高い城の男』をはじめ、少なくない。ところが本書は、1936年の二・二六事件、超国家主義のイデオローグ北一輝の『日本改造法案大綱』をバイブルとする皇道派の青年将校たちが統制派を一掃しようとして失敗した昭和史上の大事件を、世界史と連動する危機とみなす。さて皇道派があくまで下から、すなわち国民の側から天皇制を作り替えようともくろんだこのテロが、もしも成功を収め、北一輝が内閣参議になりおおせていたら?

 野阿梓はこの仮説から、まさにこの時代、ドイツ留学中だった16歳の美少年、貴族の伊集院操青(みさお)が、ふとした事故で身元を取り違えられたため、実の叔父の奸計(かんけい)により歓楽の館にて性の奴隷に改造され、ユダヤ系シオニストとの取引から東京オリンピック招致へ至る無数の政治的謀略の要所要所で、至上の貢ぎ物として利用されていくという、もうひとつの「下からの革命」を紡ぎ出す。二・二六前後の世界史そのものを耽美(たんび)的なる性の歴史として読み替えるという、これはあまりに大胆な思考実験の成果である。

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