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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]巽孝之> 記事 書評 哀れなるものたち [著]アラスター・グレイ[掲載]2008年03月09日 ■大どんでん返しに心地よく翻弄され 1881年2月、スコットランドはグラスゴー市のクライド川から引き揚げられた若き妊婦の溺死(できし)体が、天才外科医ゴドウィン・バクスターの手で甦(よみがえ)る。彼はあろうことか胎児の脳を母胎の脳に移し替え、いわばフランケンシュタインの怪物の女性版を創造してしまうのだ。 とはいえ、これはほんの序の口。生まれたばかりの人造美女ベラは、やがて製作者ゴドウィン(通称「ゴッド」)からもその親友たる婚約者アーチボルド・マッキャンドレスからも逃れて愛人と駆け落ちするわ、ヨーロッパ中を巡ったあげくパリの売春宿で働き出すわ、帰還したらしたで、元夫と名乗る国民的英雄のブレシントン将軍が現れ銃をふりまわすわの、てんやわんや。だが最終的には婚約者と元の鞘(さや)に収まって、めでたしめでたし。 ……というのが、全4部構成のうち、編纂(へんさん)者を兼ねた作者の「序文」(第1部)に続く第2部、マッキャンドレス自身のゴシック・ロマンスめいた手記。その記述はすぐさま第3部、彼の妻たるベラの手記によって大半がうそっぱちであり、彼女の人生の悪魔的なパロディーにすぎないことが糾弾され、にもかかわらず、彼がこれを書きあげたのは、ゴッドおよびベラにはさまれた三角関係のうちで生々しい嫉妬(しっと)と羨望(せんぼう)を覚えていたからであろうという推測が、リアルなまでに展開される。 ところが、さらに第4部、再登場した作者兼編纂者の一見実直な「批評的歴史的な註(ちゅう)」は驚くべきどんでん返しを用意しているのだから、いやはや油断は禁物。 読者は事実かと思えば幻想、妄想かと思えば現実という著者のアクロバティックな語りによって、心地よくも翻弄(ほんろう)されるだろう。1981年の実験的巨編『ラナーク』で一躍世界文学の最先端へ躍り出て、いまやジョイスやガルシア・マルケス、ピンチョンにもたとえられる現代スコットランド文学の巨匠の92年作品は、疑いなく、小説を問い直す小説(メタフィクション)の神髄を成す。ウィットブレッド賞、ガーディアン賞受賞作。 ◇ Poor Things、高橋和久訳/Alasdair Gray 34年、英グラスゴー生まれ。作家、画家、劇作家。
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