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書評

「漢奸」と英雄の満洲 [著]澁谷由里

[掲載]2008年03月16日
[評者]奈良岡聰智(京都大学准教授)

■日本に協力した中国人の実像

 満州事変以降、日本が満州で支配を確立していく過程で、満州の側には、日本の進出を甘受する協力者たちがいた。

 彼らは、中国では「漢奸(かんかん)」すなわち国家や漢民族への裏切り者と呼ばれ、今なお厳しく断罪されている。筆者は、張作霖政権の幹部として活躍し、日本に抵抗を試みつつも、やがてその支配に協力する立場に追い込まれ、「漢奸」の名を背負った人々の苦悩を追っている。

 対日協力で蓄財に励みつつ、関東軍に抵抗も示した「大漢奸」于冲漢。満州国の国務総理として、日本の傀儡(かいらい)とされたことを悔いながら、戦後の裁判で自分が「売国奴」だとは決して認めなかった張景恵。他方で、張景恵の息子のように、日本に近い立場を取る父を敬慕しながら、反日へと進んでいった人物もいた。断罪でも弁護でもなく、等身大の人物像を浮かび上がらせようとする筆者の姿勢に好感が持てる。

 残念なことに、「漢奸」の戦後は十分に明らかにされていない。それは、彼らが戦犯とされ、その後文化大革命でも迫害されたため、ほとんど史料が残されず、消息すら不明な者も少なくないからだという。日中の歴史問題の解決には、今なお困難な面があることを思い知らされる。

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