ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]小林良彰> 記事

書評

地域の力―食・農・まちづくり [著]大江正章

[掲載]2008年03月23日
[評者]小林良彰(慶應大学教授・政治学)

■土地の特性を生かし、農業の自立を

 中国製冷凍ギョーザへの殺虫剤混入事件をきっかけに、「食の安全」に対する関心が高まっている。しかし、食料の国内自給率を上げようとしても、ただ補助金をばらまくだけでは長続きはしない。そこで、求められるのが、採算が取れるように収支を考えた食のビジネスモデルである。

 例えば、愛媛県今治市では、従来の給食センターで調理した給食を各学校に配達するセンター方式から各学校ごとに給食を調理する自校方式に改め、できるだけ地場産の有機農産物を利用するようにした。もし給食での利用がなかったら、コストがかかる有機農産物の生産は難しかったかもしれない。安全で美味な食材を提供できるために、1日あたりの食べ残しが従来の10分の1になった学校もある。

 また、兵庫県相生市の農業クラブでは、有償ボランティアが無農薬減農薬の有機野菜を使った手作り料理の配食サービスを行っている。また、レストランや地産直買(じきがい)の場も設けて相当の売り上げがある。ボランティアも、周囲の民間パートと同等とまではいかないまでも今では報酬を受けられるようになった。

 各地の自治体が所有者から農地を借りて住民に安価で貸す市民農園を行っているが、うまくいかずに放置状態になってしまうケースも少なくない。そこで、東京都練馬区では、「体験農園」という新たなシステムを生み出した。

 一般の市民農園よりも高い料金(区民で3万円余)を徴収する代わりに、農地を所有する園主が借り手に減農薬減化学肥料栽培を指導する。園主にとっては収入になり、借り手も料金に見合う収穫を手にすることができている。

 本書では、この他にも、北欧型の自給重視の酪農や森林認証を利用した林業など、著者が自らの足で集めた計18の事例が紹介されている。

 元々、四季に富み、地形が複雑なわが国には、多品種少量生産が合っている。それにもかかわらず、農政は生産の大規模化ばかりを目指してきた。本書を通じて、わが国の国土にあった農業のビジネスモデルを、もう一度、考え直してみてはどうだろうか。

    ◇

 おおえ・ただあき 57年生まれ。ジャーナリスト・編集者。著書に『農業という仕事』。

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る