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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]渡辺政隆> 記事 書評 光の指で触れよ [著]池澤夏樹[掲載]2008年03月23日 ■離ればなれの家族に「新世界」はあるか 気候変動、エネルギー問題、経済不安、南北問題等々、世界を覆う空気は重い。しかし、とりあえず日々の生活に困っていないとしたら、あなたの日常生活はさほど暗くもないのではないか。不幸の影は、グローバルな問題としてではなく、むしろ家庭というローカルな問題として到来する。 この小説は、「天野家は仲のいい家族だった」のに、「今はばらばらに暮らしている」という前置きから始まる。 ひょんなことから小型の風力発電装置をヒマラヤの奥地に設置した夫は、会社に戻った日常の中で、自分に思いを寄せる職場の若い女性の愛に応えてしまう。かつては夫と何でも論じ合う関係だった妻は、それを知ると何も告げずに幼い娘を連れてヨーロッパに旅立つ。小学校4年のときに父をヒマラヤまで単身で迎えに行った息子は、地方の高校の寄宿舎にいる。これが、天野家のばらばら生活の中身である。 本書は8年前に発表された小説『すばらしい新世界』の続編として、2005年7月から1年余り新聞に連載された小説の待望の単行本化である。語りのテンポがほどよいこともあって、前作を読んでいなくても楽しめる。 奥深いチベット文化と邂逅(かいこう)した夫は、大きな電機会社の中で一目置かれながらも、なんとなく満たされない。グローバルな問題に個人としてできる限りのことはやったが、自分の生き方に関してはかえって惑いを感じている。 一方、環境問題への関心から省エネ機器販売の起業に参加した妻は、同志とも思っていた夫に裏切られ、大地震に見舞われて住処(すみか)を失ったようなショックを受けた。 科学技術を用いて環境エネルギー問題に取り組んでいたはずの夫婦は、離れて暮らす中で、それぞれが自給自足の有機農業にひかれていく。 グローバル対ローカル、先端科学技術対エコ、この対立構造を解決しない限り、すばらしい新世界の実現はないのかもしれない。静かな語り口ながら、問いかけられているテーマは重い。 ◇ いけざわ・なつき 45年生まれ。作家。『スティル・ライフ』で芥川賞。
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