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書評

「中国問題」の内幕 [著]清水美和

[掲載]2008年03月30日
[評者]高原明生(東京大学教授・東アジア政治)

■「仮説」に挑むことで近づく確かな判断

 巨大で多様な中国を偏見や先入観なく客観的に観察し、状況を判断することは容易ではない。根拠もなくいい加減なことをいう輩(やから)が多い中で、重要なのは信頼できる書き手を見分け、見定めることだ。

 本書の著者は、昨年の日本記者クラブ賞に輝いたジャーナリスト。自信を持ってお薦めできる、最も頼りになる中国観察者の一人である。本書が対象とするのは05年以降の日中関係と中国内政だが、定評のある過去の多くの著作と同様、プロをうならせる情報と分析を満載している。

 たとえば著者は、07年春の温家宝首相来日の前後、日本の最高裁が日中関係にかかわる二つの問題に判断を下したことに注目する。80年代に日中台を巻き込む外交問題となった光華寮訴訟に関しては中国に有利に、そして強制連行訴訟については、国交正常化時に個人の賠償請求も放棄されたと判断した。著者はこのタイミングを偶然の一致とは見ていない。

 翻って中国に関しては、権力と権益をめぐる「特殊利益集団」の熾烈(しれつ)な争いを綿密に分析する。共産主義青年団出身者(「団派」)と前総書記に連なる上海グループ、さらには高級幹部子弟(「太子党」)や軍の間で展開される権力闘争。それが汚職腐敗の摘発や成長か均衡かといった経済政策論争、さらには対日政策にも影響する事情を生々しく描き出す。

 著者によれば、中国指導部の意思決定に関する報道や分析は「仮説」に留(とど)まる宿命を負う。確かに本書には随分大胆だなと思わせる断定もある。だが「仮説」に挑むことで確かな判断に近づくという著者の主張には共感できる。重要なのは交錯する情報を取捨選択し、織り合わせて状況判断に至る総合的な力だ。そのためには、長年の観察の積み重ねや情報通の中国人たちとの付き合いも欠かせない。

 一般の読者には、どの書き手がそのような力量の持ち主か判断に迷う場合もあろう。2年間の拙評がその役目を果たせたかどうかは覚束(おぼつか)ないが、現代中国についての書評は、その点で一定の役割を担っているのだろう。

    ◇

 しみず・よしかず 53年生まれ。東京新聞論説委員。『中国農民の反乱』など。

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